12話 花占いはしないで

翌朝、ユリは重いまぶたをこすりながら、いつもの制服に袖を通した。

だが心はどこか落ち着かず、昨夜の不思議な囁きを何度も反芻していた。


「一部…私の中に…?」

胸のペンダントがほんの少しだけ熱を帯びているように感じた。


学校に向かう途中、街角の喧騒の中でふと、スイレンの声が頭に響く。


「滅びは避けられない。けれど、それを見届けるのはあなたの役目よ」


ユリは足を止めた。目の前の交差点に咲く睡蓮の花。

その花言葉は「信仰」と「清純な心」。

その名を持つ教祖の声が彼女の意識に深く刻まれていた。


教団の影は学校にも忍び寄る。休み時間の教室で、ユリは窓の外に目をやる。

遠くの公園で、制服姿の少女たちがひそひそと話す影が見えた。


「教団の者かもしれない…」

不安に駆られながらも、ユリは決意を新たにした。


昼休み、教室の隅で一人の少女が彼女に声をかけてきた。


「あなた、黒百合の…ユリちゃん?」

その声の主は、ふわりとしたピンク色の髪を揺らす少女。


「私はマリー。悲しみを背負う者…あなたに話したいことがある」


ユリは一瞬たじろいだが、マリーの瞳には何か深い哀しみが宿っていた。


「…教団には、理由がある。みんな、それぞれの痛みを抱えている。理解してほしい」


ユリは胸のペンダントを握りしめながら、静かに頷いた。

彼女の中で、封じられていた何かが少しずつほころび始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る