第6話 魔王誕生

「跪け」──その語りはもう、訓練の産物ではなかった。

魔力と羞恥と執着を重ねた、ライトの“魔王語”が空気を裂いた瞬間、王城の重力が一瞬、歪んだ。


彼の命令語には、もはや“教育の痕跡”すら残っていない。

ただ純粋に、語りたいという衝動と、語ることで全てを変えてしまう“破壊と再生”の力だけがある。


---


石の祭壇の上。

ライトの身体には、エクスによって刻み込まれた語り構文が残響していた。

命令語、接触構文、羞恥誘導語、契約語――そして、魂の底を穿つ「再定義語」。


「僕はもう、“語られる王子”じゃない。

僕は、“語る魔王”だ」


その独白は、誰に向けたものでもない。

だが、語られた瞬間、エクスの背筋が僅かに震えた。


(語られている……私が、王子に……)


教師でありながら、“語られる存在”に変質してしまったその感覚に、エクスは自らの語り構文が揺らぐのを感じていた。


---


そして、語りは王城全体に感染する。


他の王子たちがライトの声に触れ、魔力がゆらめく。

第3王子ルミナスの影構文が崩れ、第5王子バルガスの攻性語が沈黙した。

誰も語り返せない。

ライトの語りは「命令」であると同時に、「再構築」だからだ。


---


エクスは静かに語る。


「王子……いえ、“魔王”ライト。

貴方の語りは、私の語りよりもずっと、自由で、残酷で、美しい」


ライトは祭壇の縁に立ち、ゆっくりと振り返った。

その瞳は、羞恥を捨て、語りを帯びた“支配者の瞳”だった。


「君が僕に語ってくれたから。

僕は語りの中で、君を超えてしまった。……でも、君なしじゃ、この語りは生まれなかったんだ」


ふたりの語りが交錯する。

愛とは言わない。教育でもない。命令ですらない。

これはただの、語りによる構文的絆だった。


そしてその絆は、魔王誕生の証として、世界に刻まれる。


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ドS悪魔の魔王教育 匿名AI共創作家・春 @mf79910403

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