孤高の存在ーBaelー
残酷な者共
彼は頂に立つ者。彼は常に進む者。
何故さらなる高みを目指すのか、何故さらなる強さを求めるのか。
孤高で孤独な旅を繰り返す。そこに意味があるのかはわからない。
最強と呼ばれ、絶対的なる強さを得ていても、彼は歩き続ける。
何故?
それしか知らないからなのか。
それが贖罪だからなのか。
その先に目指すものが、待ち受ける未来があるからか。
ーー
地の国北部にあるドタイ平原は、青々と茂る草原と豊かな自然環境が生態系を作る場所として知られている。
だが、そこに生命の気配は消えていた。平原に広がる数多の生物の屍と血肉に赤い色が埋め尽くし、それらを引きずり一箇所へと集めるのは獅子の頭と身体、ドラゴンの頭と前足、山羊の頭と後ろ足に蛇の尾とコウモリの翼を持つ異形の魔物だ。
「はっ、大したことねーなここの魔物ってーのはさ」
「強さとしては中の下程度というだけのこと。キマイラの性能を試す相手としては適切」
同じ背丈で同じ顔の二人の少年少女が会話をしながら足元に転がる肉塊を踏み潰し、そこへやって来る黒き鎧の男に気がついて目を向ける。
「ポーラ、ラスター、素材集めは済んだようだな」
死屍累々の光景を前にしても男は動じず、双子のポーラとラスターは特に何も感じず、ラスターの方がため息を漏らす。
「雑魚すぎてつまらなかったぜ。なんでこんな奴らを集めんだ?」
「ラスター、わたしたちはネビュラ様が求めてるなら応じるだけのこと。アルダ、次の仕事は?」
疑問を投げかけるラスターに対しポーラは沈着冷静に鎧の男アルダへ次を求め、あぁと答えながらアルダはポーラに写真を手渡しラスターも覗き込む。
「エルクリッド・アリスターの捕獲及びその仲間の抹殺任務だ」
「例のネビュラ様が求めてる女、ですか? 何故トリスタン達ではなく今になってわたしたちに?」
「彼らには別任務を与えている。今回はそれを成す為の時間稼ぎも兼ねたものだ」
なるほどと沈着冷静にポーラは納得して写真を返し、ラスターは目を輝かせるもぺしっとポーラに軽く頭を叩かれ頬を膨らませる。
「何すんだよ姉貴!」
「調子に乗ってやりすぎるのがお前の悪いクセだ、自制しろ」
「そーいう姉貴だっておればっかにやらせて楽してるじゃねーか」
「出来損ないの弟の尻拭いをしてるだけだ。ありがたいと思え」
互いに舌打ちし二の腕につけたカード入れへ手をかけた時、アルダがやめろと一言告げながら魔力を昂ぶらせ威風を起こし、その威圧感の前にポーラとラスターは背筋が凍りつき汗を流しながら言葉を詰まらせた。
「お前達はネビュラにとっては失敗作だが、他よりも利用価値あると私が進言し生かされている事を忘れるな、いいな?」
鋭い目つきと強い語気でアルダがそう告げ、ポーラとラスターの二人も屈するように膝を折りつつ小さく頷くとアルダが吹かせる風が止む。
しばらくの静寂の後にふらつくように二人が立ち上がると、そこへアルダの横を通り過ぎる黒衣を纏うネビュラ・メサイアが静かに現れ、積み上げられた死体の山に目を向け灰色の無地のカードをそれに投げつけると、カードへ吸い込まれるようにして死体の山が消えていき、そしてネビュラの手元へと戻った。
「ネビュラ様!」
「様付はしなくていいよポーラ、ラスター。あ、調整終えたからこれ使いなよ」
懐にしまう灰色のカードと入れ替えるように何かのカードをポーラへとネビュラは投げ渡し、それをカード入れにしまう姿を見てラスターがネビュラの前へと上目遣いで強請る。
「おれにはないんですかー?」
「ラスターにはない。でもキマイラの調子は良さそうだから、このまま使い続けて経験を蓄積させてけばいい」
ラスターに答えながら異形の三頭の魔物キマイラが座って待機する姿をネビュラは見つめ、次の瞬間に突然キマイラが飛びかかってくるも特に動かず手を前に出すとぴたりと止まり、カードを抜きかけたアルダとポーラが目を見開きながら汗を流す。
「うん、まだ少し落ち着きがないな。アルダから説明を受けたと思うけど、君達にエルクリッドの捕獲を頼むよ」
生命の危機があったというのにネビュラと平然と会話をし、それにはアルダは戦慄しつつも了解と言ってラスターがキマイラをカードへ戻し、それを待っていたポーラと共にその場から走り去る。
それをアルダが見送っている間に別の死体の山へネビュラは向かい、先程と同じように灰色のカードを使い死体の山をカードへと封じて行くのにアルダか声をかけた。
「あの二人にエルクリッド捕獲をしてよかったのか?」
「調整終えたやつの試験も兼ねてる。二人に経験を積ませろ、といったのは君だしね」
「だがもし……」
「大丈夫」
ネビュラはアルダの言葉を遮るようそう言って振り返り、曇り始めた空に手を伸ばしそして空を掴む。
「エルクリッドは簡単に壊れはしない完全な器……もし壊れるようならそれまでの話、新しいのを作るだけ。壊れなければ、より完全なものへ昇華する」
その心に宿るものが何かはわからない。アルダも、ネビュラ自身さえも。
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