再出発
会議が終わりリリルやニアリット達がアヤセの屋敷から帰る中、残ったクロスはタラゼドと共に客間を借りてエルクリッドに頭を下げていた。
「色々黙っていて悪かった。許してくれとは言わない」
「い、いえいいんです! 言えないって理由も、わかりますし……」
慌てるエルクリッドもまた師たるクロスが知りながら黙っていた理由を察しつつも、彼やタラゼドが見守り続けた事を知る。もし自分が同じ立場ならきっとそうしたろうと思えたし、その身に宿る力は確かに危険なものとはわかるから。
それは謝罪を見守るノヴァやシェダ、リオにも伝わるもので、同時にこれからどうすべきかを話すべきと思い、シェダがまずその話題に触れた。
「えーっと、とりあえず風の国に言ってルナールって人に会えばいいんすよね?」
「あぁ、あいつがいるのは風の国南部にあるカナリア牢獄の中だ。アヤセが言ったように、お前達が会えばルナールも興味を持つかもしれない」
カナリア牢獄の名前を聞いてシェダ達は言葉を失う。エタリラ最大最悪の監獄であり、重罪人が入れられ二度と出ることが無いと言われる地獄の一つとして知られている。
そこに入る程の大罪を犯したならばメビウス達が難色を示したのも合点ができ、またそれは自分達への試練も兼ねているとも理解できた。無論それはルナールの力を借りずにネビュラの所在を割り出す時間稼ぎもあるだろうが。
「風の国に行くにはここから北に向かってブレイズ山脈地帯を越えてく必要がある。そこからさらに南部ってなると……
「なるほど、それだけかかるのであればアヤセ様の提案にも納得ができますね」
ごそごそとノヴァが畳の上にエタリラの北と西の二つの地図を広げながらクロスに答え、エルクリッド達も地図を見て過酷な道のりなのを理解し息を呑む。
ブレイズ山脈地帯は活火山が連なり、そこを抜けたとしても待っているのは風の国シルファス特有の高地環境である。エタリラにおいてシルファスは他三カ国よりも標高が高く、その為風の国出身者でもなければ最初に訪れた時はその環境が最大の敵となる。
だが同時にその環境は古くから修練の地として利用され、強さを求めるならばそこに向かい目的を果たすだけでも大きな効果は期待できるだろう。
エルクリッドの脳裏にバエルに敗北し、より強くなりたいと思えた事が浮かぶ。そして、自分の秘密を知るネビュラと会わねばならぬと。
「師匠……あたし、バエルに負けました。完敗です、あんなに強いリスナーが……いるんだって思い知りました」
「あぁ、来る途中で戦った場所を見てきた。マーズを引きずり出せただけ上出来だ」
「うん……でも、まだまだです」
エルクリッドはクロスの顔をまっすぐ見つめ、その目に宿る光の強さが増す。
「あたしは強くなりたい。リスナーとして、あいつに勝ちたいし越えたい……その為には火の夢の力も多分必要になるし、暴走しないようちゃんと理解しなきゃって……今、心から思うんです」
「エルク……」
二年前にエルクリッドを助け、半年程した時に弟子入りを志願してきた事をクロスは思い出す。復讐の為ではなく、バエルとは違う強さを得たいと願った彼女の目は強く、今もまたその時と同じ、いやそれ以上に強い煌めきがあると感じて笑みが溢れる。
「成長したなエルク。シェダも負けてられないな」
「もちろんっすよ。一応は兄弟子ですし、俺だって神獣のカード手に入れる為にも強くなります!」
弟子達の眩しさにはそれ以上言う事はないとクロスは感じて微笑み、その上でノヴァとリオ、そしてタラゼドの方へと身体を向け顔を見つめてから改めて頭を下げ、師としての言葉を贈った。
「言えた義理はないが、二人の事をこれからもよろしく頼む」
「はい! 任せてください!」
「助け合って、これからも共に進みます」
元気よく答えるノヴァと冷静沈着ながらも微笑み答えるリオの言葉にクロスは安心し、またなと言ってさる彼を見届けたタラゼドもまたいつものように微笑みながら在りし日を思い出す。
(クロス……あなたが旅をしてた頃を思い出します。これから待ち受ける試練は彼女達にとって辛いものになるでしょうが、きっと、乗り越えてくれる……あなた達がそうであったように、挫けぬ心を持って前へ)
旅路について和気あいあいと話し合い始めるエルクリッド達にかつての仲間達の姿を重ねつつも、これから待ち受ける試練の数々にタラゼドは不安と、乗り越えてくれるという期待とを思う。
敗北を経て始まる新たな出発は試練の始まり。そして挫けぬ心が明日への一歩を後押しし、未来を掴む力となるのだから。
NEXT……
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