会議

 アヤセの屋敷の中でも一際広く、掛け軸や金屏風など高価なものがある広間に座布団とその前に膳台が置かれ、エルクリッド達もそれぞれ席につき、一段高く肘置きがある場所にはリリルが堂々と座りアヤセが睨みつけていた。


「リリル様、そこはワタクシの場所ですが?」


「年功序列という言葉を知らぬのか? 妾はお主より歳上だからの」


 ふふんと気取るリリルにアヤセは渋々従う形で仕方なく低い場所の席に座り、そのやり取りにメビウスはニコニコと微笑み、ニアリットは特別何も反応せずにいる。


 十二星召の内四人がいる光景は以前もあったが、リリルを除き面子が異なるのもありエルクリッド達は少し緊張しつつ、咳払いを挟んでアヤセが口を開き会議が始まった。


「ではこれより会議を始めます。議題は、火の夢とそれに関わるネビュラ・メサイアについて、です」


 十二星召はエタリラに影響がある物事に対処する役目を持ち、彼らが議題とする事は世界にとって脅威になり得るものと言える。

 火の夢、ネビュラ・メサイア、その二つと繋がりがある可能性が高いエルクリッドはぐっと手を握りしめながら耳を傾け、アヤセがニアリットの名を呼び彼が静かに語るのはネビュラについてだ。


「ネビュラ・メサイアの名はゴーレム製造者で伝説として残されている。遺した物が負の遺産だけではないことは間違いなく、しかし、自制心を持たぬ彼奴がかつて火の夢という災厄をもたらし今再び動かんとしてるのは確か……エルクリッド・アリスター、お主の存在がそれを示してくれた」


 ニアリットは顔をエルクリッドの方に向け、目を向けられたエルクリッドも肩の力が入り背筋も伸びる。かつて彼の元で試練を受けた時の事は記憶にあるが、あの時はまだ特に火の夢に関する力の事はアセス達も感じてはいない。

 ニアリットに続けて口を開くのは、ふんぞり返るように座るリリルだ。


「ニアリットからクロスへ連絡があり、そこから妾へエルクリッドの血液検査をするよう頼まれての。結果を先に言えばエルクリッド、お前はエルフでありながら人の血も混ざった存在……普通ではないとわかった」


「えっと……それは、どういう?」


 血液を調べられたのは納得ができたが、エルフと人間が混ざった存在という点はエルクリッドはもちろん、ノヴァ達も疑問が浮かぶもの。それにはリリルがタラゼドへ視線を送って答えるように促し、苦笑しつつタラゼドはある理について話す。


「人間をはじめとするこの世界に住まう生命は、同族とだけ交わる事で子孫を残せます。その中でエルフだけはあらゆる種族と交わり子孫を残す事ができますが、生まれてくるのはエルフのみ……つまり、エルクリッドさんのように人間とエルフの血を持つ存在ができることはないのです」


 生物的法則から外れた存在たるエルクリッドがいる。その衝撃がいかほどのものかは知識あるものにしかわからず、だが確かに自分はエルフの母スバルから生まれているとエルクリッドは改めて思い返し、矛盾があるのではと思う。


「妾も結果を見て驚いたものだ。まぁ、エルクリッドが魅力的な存在なのは確かな事……どうだ、今からでも……」


「リリル様、今は会議中ですのでそのくらいに」


 リリルの甘言に割り込み場の空気をアヤセが強引に戻し、困惑の色を浮かべるエルクリッドに目を向けながらこれまでの経緯を改めて語り始め、それをエルクリッド達は静かに聞き入る。


「あなたに宿る矛盾について我々は秘密裏に調査をしました。結果として、あなたに宿るのは火の夢と似た力があるということ……そしてそこにあなたの母スバルと、ネビュラ・メサイアが関わっているという事も」


「でも何であたしは……その、人間とエルフの血が? ネビュラって奴がどうにかしたとかってことですか?」


「可能性としては高いと思われます。ネビュラは密造カードの製造方法を何処からか編み出して資金源としているのは各国の調べでわかっていますが、四大国の動きを察知する協力者がいるらしく捕縛に至らず十二星召も調査する案件となっています」


 矛盾をどのようにネビュラは解決したのか、ふとエルクリッドは伯父にあたるシリウスが口にした大罪人という言葉を思い出し、口に出しかけるも確証がなかったので思い止め話を聞き続けた。


「火の夢と似た力を宿すあなたについての処遇は既に伝えた通りです。確かにその力は恐ろしいものでありますが、先日、バエル・プレディカとの戦いでは激闘にも関わらず出なかったと聞き及んでいます」


 バエルとの戦いの内容はエルクリッド自身も看病ついでとアヤセに伝え、見守っていたノヴァ達も詳細を話してある。確かにバエルとの戦いでは黒い光を纏わず、火の夢の力は発現することなく最後まで戦い抜けた。

 ハシュの試練やサレナ神殿での神闘礼儀、カラードとの戦いでは出たにも関わらず今回出なかった理由はエルクリッド自身もわからず、どう答えていいか戸惑っていると代わりに口を開いたのはリオである。


「エルクリッドの師であるクロス殿は、彼女が力を制御できるものと考えているようでしたが皆様はどのようにお考えなのですか?」


「ワタクシからは何とも。ですがクロス様が見込んだ者ならば信用はできる部分も、未知数な部分も両方を備えているのもまた事実です」


 同感だ、とニアリットもアヤセに続いて意見を述べ、それにリリルは特段興味なさそうに自身の手の爪を眺めほくそ笑み、残るメビウスはニコリと穏やかな笑みを見せながらエルクリッドを捉えていた。


「わたしは、クロスくんの判断を信じるよ。こうして見ていると彼の弟子というのも納得がいくし、バエルくんとも似ているところもあって賭けてみたくなる」


 肯定的な意見を述べるメビウスにニアリットが顔をしかめ、同じようにアヤセもしかしと意見しかけるものの、メビウスの笑顔に押し切られ口を閉ざす。


 もちろんそれだけではないと、メビウスは続けて口にし、一同の視線を集める中で穏やかにエルクリッドへ言葉を贈る。


「君の力はまだまだわからないことだらけで不安になるだろうし、不安にさせてしまう。でもだからこそ恐れず知る事が大切で、その力の意味や使い方を理解した時に君の為になるとわたしは思っているよ」


「それは……そうかもですけど……」


「大丈夫、君は一人ではない。アセスがいて、仲間がいて、見守ってくれる人達がいるからね」


 すんなりその言葉はエルクリッドの胸にストンと入る。アセスや仲間、見守ってくれる人達がいる事の意味や、力との向き合い方を学んだ気がしたから。


 初対面にも関わらず、何処か抜けてて頼りなさそうにも見えながらも、公爵メビウスの優しさにエルクリッドははいっと笑顔で応えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る