あたしの道

 伝えられた事実を胸に、エルクリッドは大きく息を吸うと宝玉の如き赤い目を輝かせ、シリウスをしっかり見つめ言い放つ。


「あたしは、前に進むだけ。ノヴァの願いも叶えたい、シェダやリオさんの手伝いもしたい、あたし自身の目指すものも叶える」


 辛い事もあった、悲しい事も、楽しい事も、悔しさ、怒り、恐れ、様々な感情と共に別れ、出会い、そして今ここにいる。


 凛としたエルクリッドに迷いはなく、シリウスもそうかと答えを受け入れつつ小さく頷き頭巾を被ると出入口の方へと歩き出す。


「それがお前の道なら進むといい。我が妹の罪の償いは背負わなくていいが、知る度に辛くなるだろう……その覚悟だけは、しておくといい」


「うん……ありがと、シリウス、伯父さん」


「改めてそう呼ばれると、少し、恥ずかしいな……また会おう」


 砂嵐吹き荒れる中に一人シリウスは外へと向かい、だが何処か明るく感じられたのは血縁者がいたからか。


 しばらくの緊張の後エルクリッドはその場にへたりこむように座り、肩の力を抜いてはぁーと魂が抜けるかのような息を吐いてノヴァが寄り添う。


「エルクさん大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫ー、ちょっと情報多くて頭熱貯まっただけだから……なんか、変な力入っちゃったかなー」


 少し弱々しくも明るく答えたエルクリッドがさらにお腹の虫を鳴らし、それには一瞬の間の後に思わず一同笑って雰囲気が明るくなるのだった。



ーー


 砂嵐はその後もやむことはなく、エルクリッド達はそのまま遺跡で過ごす。


 様々な事実が五月雨のごとく判明したエルクリッドは少し疲れた様子で玉座の間の階段に座ってため息をつき、少し離れて火を炊く仲間達がそれを見守り続けていた。


(エルクさん……大丈夫、ですよね)


 駆け寄りたい気持ちを抑えつつもノヴァはエルクリッドを思う。自分には計り知れない思いがあるのだろう、駆け巡る思いが戸惑いとなり、ため息として漏れている。


 淡々とツールカードを使って焚き火用の枯れ木を出してそれを折っているシェダやリオも思いは同じ、そしてより多くを知るタラゼドも食事の準備を進めながら多くを思う。


(エルクリッドさん……あなたは火の夢と関わりがある。ですが、そうでないと信じた方の思いもまた)


 彼女を信じて力の使い方を教えた者がいる。その思いはエルクリッド自身もわかっていると。


 しかしやはり何とも言えぬ空気に耐え兼ねてノヴァが立ち上がると、エルクリッドも同様に立ち上がっていつものように両頬を叩き気を引き締める。


「反省会終わり! タラゼドさんご飯なんですかー?」


「ノヴェルカの森で育った良質な木の実を使ったパイですね」


 よく通る快活な声に少し驚きつつもタラゼドはいつものように微笑みながら返し、エルクリッドは軽やかな足取りでノヴァの隣に来て彼女の頭にそっと手を置き、見上げる彼女に笑顔を返す。


「大丈夫、あたしはあたしだよ」


 その笑顔に影はなく前向きで光が秘められたもの、出会った時から変わらず明るい笑顔そのもの。とはいえエルクリッドも流石にそれだけではと感じ、静かにしゃがみ炎を見つめながら思いを話す。


「シリウス伯父さんのことはちょっとびっくりだけど、あの人に言ったようにあたしは前に進むだけ……目指すものは変わらないよ」


 燃えるメティオ機関を背後に立つバエルの姿は鮮明に思い出せる。そして今は、ただの仇敵とは言い切れない。


(きっと……バエルも何か知ってる。でも聞き出すには、あたしが強くならないといけない)


 目指すものに変わりはない。そこに至る為に強くなる事も、その過程が辛く心身が傷つき苦難に満ちているのもわかってたはずと改めて言い聞かせ、エルクリッドは凛としノヴァ達に目を向けた。

 彼女の眼差しからいつもの明るさも、これからも道が変わらない事も、そして共にそれぞれの目的を果たす為に協力し合うことも。


 頷きあう仲間達を見てタラゼドも安堵の笑みを浮かべ、練った生地の形を整えていく。

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