第3話 愚痴

買い物から帰宅途中、ふいにラブホテルが目に入った。ここからなら歩いてそう遠くない距離だし、恋人同士なら入ったって問題無いだろと思って三日月を誘ってみよう。


「な、なあ三日月?疲れただろ?」

「別に?疲れたのなら家に帰ろっか」


流石に露骨過ぎたのか遠まわしに断れた。

だけど、恋人としての期間はかなり長い筈なのに、一度もそう言った事をしていない。

最初は体調が悪いとか、月の日と被ってしまったかと考えたが、いくら何でも断られ過ぎて違和感を覚えてきた程だ。

数えてないが恐らく1ヶ月は営みをしてない……。アセクシャルでは無いはずだが、それでこの断られようは浮気でもしてるのかと疑っても不思議ではない頃合いだ。


「お前さ、浮気でもしてる?」

「なんでそう思うの」

「なんでって、こうも断れ続けたら疑いたくもなるだろ」

「……気が乗らないの。彼氏なら分かってくれない?」


束縛してくる察してちゃんとか、ヤンデレじゃなくてメンヘラか。地雷引いてしまったなぁ……コイツのどこが良いんだよと思う日が増えてきた。

でも別れようとすると凶器を見せて来るし、どうしたら良いのやら……。

溜まった性欲を解消しに風俗も考えたけど、三日月の奴、絶対付いてくるから行こうにも行けない。


「家に着いたら親に愚痴るか……」


そんな事を考えながら、どんよりとした気持ちのまま帰宅した。

母親なら女の気持ちが分かるんじゃないかと思って。

女友達?三日月が他の女と干渉させてくれないから三日月以外となると母親しかいない。頼れるのなら女友達を作って相談したい気分だ。


「ただいま」


帰路に着いて家に入り、早速親に電話を掛けた。

三日月は晩御飯の準備してる。こういう家庭的な所は好印象何だけどなぁ……。


「もしもし母さん?」

『?もしもし?どうしたのよ陽』

「三日月の事なんだけど……」

『?朔也ちゃんがどうしたのよ……』

「どうしたもこうしたも、ちょっと様子変でさ……」


親に言うには恥ずかしすぎる事だが、このままじゃ埒が明かないし頼れる女の人ってなると母親しかいないから、恥を忍んであるがままをぶっちゃけた。

レスになってる事と、手を繋いで歩く事をしなくなった事も、同じ寝室で寝るのを拒否されてソファーで寝られる事も、全部。


「で、俺浮気を疑ってるんだけど、母さんはどう思う?」

『うーんそうね……楽観視するなら、サプライズしたくてそっけないとか?』

「サプライズ?」

『明日はバレンタインよ?陽を驚かせたいから関わって欲しくないのかもよ?』


言われて気が付いたが、そういえば明日はバレンタインデーだ。

三日月の奴、俺に甘いものを、特にチョコレートを食わせない行動をしてくるけど、それに意味があるというのだろうか?バレンタインで特別なチョコレートをくれるとかだろうか?


「サプライズにしても1人にさせてくれないし、気が滅入る……」

『あら?朔也ちゃん結構甘えたがりの寂しがりやさんよ?離れてほしくないだけよ』

「……そうか?」

『そうよ。男ならドーンと構えてなさい』

「まあ明日のバレンタイン次第でちょっと話し合いするわ」

『そうなさい』

「ありがとう、気が楽になった」


明日のバレンタインの内容次第で別れ話を切り出す。

サプライズじゃ無かったらこの関係を続ける意味なんて無いし、お互いの為にもならない。

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