第一話 テーマパークに行こう!
千葉県にあるそのテーマパークを涼暮一家が訪れた理由は、生まれた順に上から数えて三番目である長女、
そして、現在に至る。長く並んだ果てにようやく入場を果たした涼暮一家は、そのテーマパークの世界観を堪能した後、すぐに散開した。本日の主役である、涼暮空珠を残して。
「…………」
これだから嫌だったんだよ、と、空珠は内心で毒づいた。あんなに自分に対して合格祝いの開催を要求しておいて、いざ始まったらこれだ。こうして毎回、あたしが頑張って家族を繋ぐ羽目になる——。彼女は、はあとため息をついてから、持参してきていたバッグを開いた。中にある財布には、高校に入学してから始めたバイトの収入がそこそこ入っている。そのことを思うと、テーマパークを一人で楽しむのも悪くはないかと思えた。今の彼女は高校生であり、ある程度は自分で稼ぐことができるのだから。よし、それじゃあ今日は一人で楽しもうと、彼女は華やかな音楽が包むテーマパークの広い道を歩み出した。空珠は、周囲の視線を気にしない人間である。家族なんて知るか、と、涼暮空珠は決意した。
……まあ、数時間後には、空珠はいつまで経っても集合しようとしない家族たちにしびれを切らし、とりまとめる役割に奔走することになるのだが。
千葉県に住んでいれば誰でも親しみがあると言われるこのテーマパークには、空珠も何度か訪れたことがあった。しかし、未だにこの園内の大まかな地図を把握できてはいない。これは、空珠が空間認識能力に問題を抱えているというわけではなく、単純に興味がないからだった。空珠が興味を持つのは部活動として勤しんでいるテニスの話題位のもので、彼女はそれ以外には殆ど惹かれてこなかった。しかしそんな空珠が、今日だけはこのテーマパークに興味を抱いた。これは異常事態であり、彼女がこれから被る悲劇的な状況の前兆とも言えた。しかし彼女はそんなことを露も知らず、これまで気を配ってこなかったテーマパークの、空間を作る工夫やアトラクションの従業員のアドリブといった全てに関心を向けていたのだった。これは、彼女にとっては幸運だったかもしれない。
彼女は今日を境に、人生において二度と、このテーマパークを訪れることなど無かったのだから。
空の色 さしもぐさ。 @sashimo
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