29、みんなで守る、「しらさぎのまち」・上

 四人でお昼ごはんを食べた日、アマナが真剣な顔で切り出したのは、わたしたちの覚悟を試すような、厳しい知らせだった。

 壁の管理をしている一部の大人だけが知っていた、壁の外側に設置されたレーダー。その性能を上げるための部品が、ザクロさんをはじめとした「壁の外」を知る大人たちの力もあってようやく届いたこと。そして、試験的に動かした新しいレーダーが、今までとは比べ物にならない数の動物の反応を捉えたこと。それらは近いうちに、「しらさぎのまち」までやってくる。


 アマナの話を聞いてから、二週間後。

「しらさぎのまち」は、静かな、それでいて張り詰めたような緊張に包まれていた。


 ウウウゥゥーーーーー……。


 まちのスピーカーから鳴り響く、低くて不気味なサイレンの音。それは、恐竜もどきの接近を知らせる、わたしが生まれて初めて聞く警報だった。わたしとセトカ、アマナの三人は、壁の上にある、前にナツメくんが連れてきてくれた見張り場所から、砂地の向こうを見つめていた。今日はほかにも、大人たちが何人か来ている。みんな、ナツメくんからもらった、あるいはそれをもとにつくられたゴーグルをつけていた。


「……大丈夫、かな」


 セトカが、不安そうにぽつりとつぶやく。

 レーダーでいることがわかった恐竜もどきは、十体くらいだったらしい。動きはおそいようだけれど、確実に、しらさぎのまちに向かってきている。壁の点検部の活動中に、くわしい話をしてくれたバンペイさんは、小さくつぶやいた。


「群れ」だ。


 今まで、ナツメくんが相手にしていたのは、一体で行動している恐竜もどきだけ。もともと人間を攻撃するために作られたものだから、一体で動くのがふつうだとザクロさんも言っていた。だから群れで襲ってくるなんて、まちの誰もが想像していなかった。


 でも、わたしたちはただ怯えて待っていただけじゃない。わたしの、「ナツメくんを守りたい」という小さな願いから始まった「まちを守る」ための取り組みは、この短い期間に、まち全体を巻き込む大きなうねりとなっていた。


 壁の、特にフレトロが出入りする門の周りは、以前とは比べ物にならないくらい強くなっている。わたしたち「壁の安全部」が見つけた小さなひび割れや弱った部分を、バンペイさんたち大人が、新しい素材でていねいに補強してくれたのだ。わたしたちがつけたチョークの跡はもう見えないけれど、いまの壁には、「壁の安全部」のみんなの力が詰まっている。


 わたしはじぶんが補強に関わった門の少し先に視線を向ける。そこには、見覚えのある二台の車が停まっていた。

 資料館に展示されていた、旧型のフレトロ。その丸みを帯びた車体は、半透明の板で覆われ、窓は細長い覗き窓に改造されている。そして何より、前の車体にはなかった運転席がとりつけられてきた。まちに二台だけ残っていたフレトロを改造したのだ。今回の群れに対応するために、急いで完成させた、恐竜もどきに立ち向かうわたしたちの切り札。


「……行くぞ」


 わたしの横に立っていたベルおじさんがつぶやいた。旧型のフレトロが、ゆっくりと前進をはじめる。その中には、ナツメくんやまちの大人たちが乗っているんだ。運転をしている人以外はみんな、手作りの弓を手にしているんだと思う。上からはわからないけれど、アマナが言っていた話が正しければきっとそうだ。


 ナツメくん以外のひとにとって、実戦は、今日が初めてだ。いつもはたったひとりで戦っていたナツメくんの周りに、今はたくさんのまちの仲間がいる。でも、たくさん仲間がいれば安心、というわけじゃないんだとナツメくんは言っていた。大人の人たちはたぶん、すごく緊張しているんじゃないかな。この日にむけて、フレトロに乗る人たちはナツメくんに話を聞いて、たくさん準備と練習をしたみたい。だからナツメくんの助けになってくれたらいいのだけれど。


「ミカン、あれ……」


セトカが、震える指で砂地の向こうを指さす。金色の地面の先で、砂煙が舞い上がった。もう、ゴーグルを使わなくたってわかる。来たんだ。恐竜もどきたちが。


 わたしは、ぎゅっとこぶしを握りしめる。大丈夫。わたしたちは、もう、何も知らない平和ぼけしたまちの住民じゃない。しらさぎのまちは、みんなで守るんだ。

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