状態異常編
第18話 状態異常! 前編
ピピッと、体温計の音が鳴った。
体温は、三十七度を越えている。
しんどいと思ったら、やっぱり熱が出ていた。
節々が痛いとか、吐き気なんかもないから、コロナやインフルエンザとかではなさそうだ。
テストが終わったから、体が安心してしまったのかもしれない。
(週末までに治ればいいけど・・・)
今週の日曜日は、ヒカルとトーコからバーベキューに誘われている。
それまでには絶対に治さないと・・・
「しんどい・・・」
時刻は八時過ぎ。
「ごめんシリ、ガッコーに電話して」
私は、枕に突っ伏して、自分の携帯電話に声をかけた。
「おう、安藤か」
電話口に出たのは、岡田先生だった。
「すみません、熱が出たんで、今日、休みます・・・」
「おう、わかった。そういえば、C組のバーベキュー、お前も来るんだろ? お前大丈夫か? 週末」
「頑張って治します・・・」
「おぉ、頑張れ。お大事にな」
岡田先生はそう言って電話を切った。
なんで一介の教師に、プライベートの心配されなきゃならないんだ。
『病院行けよ』とか、『お前が休むなんて珍しいな』とかもっと色々あんだろ。
「シリ、ごめん、病院検索してくれる?」
「さっきから、魔王遣いの荒いやつだ! 我輩は召使ではない! いい加減にせんか!」
「病気なの! しんどいの! しょうがないでしょ!」
もう、声を荒げる体力すらないと言うのに、こいつは・・・
「ふむぅ。状態異常というやつか。人間の体は色々と面倒だな」
シリはそう言って、渋々、病院の検索を始めた。
私のスマートフォン、シリの前世は大魔王だ。
スマホは風邪をひかないし、魔王も風邪をひかない。
つまるところ、こいつには私のいまの状況が全くわからない。
「病院ってこれか? 十時から予約できる。予約ボタンを押すのか?」
「風邪だから、何でもいいよ・・・予約して?」
「わかった」
シリは、ウェブサイトにあった、『予約ボタン』を押した。
「十時から予約を取った。駅前の病院だ」
「ありがとう。九時半にアラームかけといて」
私はそう言って、そのまま枕に顔を
◆
『何でもいい』と確かに、私はそう言った。
おそらく、私の指示が悪かったのだろう。
でも、正直、少しは、分かってて欲しかった。
『にしすまと精神病院』
病院の看板を見て、私は頭を抱えた。
「もう、ばか! ここじゃ、風邪、診てもらえないじゃない!」
頭がクラクラする。熱がだんだん上がって来る。
「む? ここは病院ではないのか? 病院と書いていたから予約したのだぞ?」
病院は病院でも、まさか精神病院とは・・・
「病院にはいっぱい種類があるんだよ・・・」
内科とか外科とか。検索する前に教えときゃよかった。
「なにぃ! そんな事、もっと早く言え!」
「だって、しんどかったんだもん!」
頭がいたい。体もフラフラする。
だめだ、もう、歩けない・・・
バタン。
そうして、私は気を失ってしまった。
◆
雑踏の中、一人のサラリーマンが、精神病院に向かっていた。
もう、生きていても仕方がないんだ。
同棲していた彼女にも振られるし、貯金も全て持って行かれてしまった。
会社の営業成績も振るわないし、彼に残されたのは、彼女の拵えた膨大な借金と、自分の部屋だけ。
もう、どうしようもなくなってしまい、一度は自殺も考えた。
流石にまずいと思って病院に行くと、うつ病だと診断された。
しかし、薬を飲んでも、病状は一向に快方に向かわない。
快方に向かわなければ、週一回通う精神病院は、全く何のために通っているのかがわからない。
ただでさえお金のない自分から、さらにお金ばかり巻き上げる存在にさえ思えてくる。
階段を登り、いつものように『にしすまと精神病院』の自動扉を潜ろうとした彼の目の前に現れたものは、白いパーカーを着て、ピンク色のスマホを持ったまま気絶した、薄茶色の髪の毛の高校生ぐらいの女の子の姿だった。
「リン、おい、リン!」
彼女が手に持っていたのスマホから、彼女の名前を呼ぶ声がする。
精神病院にやってきたサラリーマン・・・
「くそっ! おい、そこの男!」
自分を呼んでいるのか? 令太は自分のことを指差した。
「お前だよお前! 冴えない顔しやがって!」
何と言うか、口の悪い奴だ。
「この辺りに病院というものはないか? どうやら、この娘は風邪という状態異常らしい! 一刻を争う!」
目の前にあるじゃん・・・とも思ったが、このスマホの口ぶりから察するに、どうやら、内科の病院を探しているようだ。
「あぁ・・・それなら向かいのビルに・・・」
「すまないが、このバカ娘を、そこに連れて行ってやって欲しいのだ!」
「えぇえ?」
これから病院で診察を受けようとしていたのに・・・とも考えたが、確かに、女の子の容体はあまりよろしくない。
呼びかけても、ほっぺたを叩いても、反応はない。
それに、ひどい熱だった。
「ダメだよ、起きない」
「背負えば良いではないか! そんなこともできんのか!」
「僕が・・・見知らぬJKを? それってモラル的にどうなんだろう。この子だって、目が覚めた瞬間に僕に負ぶさってたらびっくりするだろうし、そもそも、こんな三十代のこんなおっさんに身体を触られたなんてなったら、彼女の失望も大きいはずだし・・・セクハラで訴えられる可能性もあるし・・・周りの目もあるし・・・」
「ゴチャゴチャ抜かすな! さっさとこれを運びだせ!」
「ヒィ!」
令太は、渋々、彼女を背中に背負って、階段を降り始めた。
マスクをして眠っているから分かりにくいが、彼女はとても可愛らしい女の子だった。
背中越しに、彼女の柔らかい感触と、ふわりと、石鹸のいい香りが鼻につく。
いかんいかん、何を考えている! 相手は女子高生だ! 気をしっかり持つんだ令太!
彼は、向かいのビルまで、彼女を背負って歩き出した。
「何あれ」
「なんか背負ってる」
「何があったんだろ」
周りの視線が痛い。やっぱり、僕みたいなおっさんが、JK背負ってたら、浮くよなぁ。
内科の自動ドアが開いた瞬間、周囲は、自分を見て、口々にヒソヒソと会話をしている。
「すみません。この娘、風邪、みたいなんです! 向かいのビルで倒れてたんです。申し訳ないですけど、診てもらえますか?」
変な誤解はされたくない。病院の受付で、令太は全員に聞こえるように、大きな声でそう言った。
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