第17話 返却ミッション!
「ねぇシリ、いま何時?」
「九時二十五分だ! それがどうした!」
小学校の教室の一角にできた、子供たちの人だかり。
伊知アキトは、集まった子供たちの前で、シリとの会話を実演してみせた。
(どこだ、ここは? 我輩は見世物ではないと言うのに・・・)
「すげー・・・」
「買ってもらったの?」
「ううん。お姉ちゃんが持って帰ってきた」
「え? それってお姉ちゃんのやつじゃないの?」
「ううん。お姉ちゃん、ちがうケータイ使ってる。だから、昨日、お父さんの充電器にさして使ってた」
「それじゃあ、お父さんの?」
「ちがうと思う。お父さん、今、北海道に出張中だし・・・」
「せっかく、喋れるんだから、誰の持ち物か聞いてみなよ」
「そうだね・・・きっと持ち主の人、困ってると思うし」
アキトの友達は口々にそう言った。
「ねぇ、シリ。君はだれの電話なの?」
「やかましいわ! ガキ共! 我輩は大魔王だ! 誰の電話だろうと関係なかろう!」
「こらぁ! チャイム鳴ったでしょ! ちゃんと席に着きなさい!」
クラスに入って来た若い女の先生は、子供達の話を遮って、席につくように注意する。
子供達は、やばいと思ったのか、散り散りになって自分の席に帰って行った。
「伊知くん! ダメじゃない! 学校に携帯電話なんか持ってきたら! お家に帰るまで、没収です!」
先生は、アキトの手から、ピンク色の携帯電話を取り上げた。
「帰るときに、また職員室にいらっしゃい。先生からお話があります」
「はぁい」
暗い声で返事をしたアキトは、渋々自分の席に戻った。
「全く・・・」
「おい、やめろ! 女、今それをするな! 勇者に位置情報が送れなくなる!」
何か言ってるけど、動画か何かだろう。
先生は、ピンク色の携帯電話の電源をOFFにした。
◆
「伊知くんだけでいいのよ? 何であなたたちまで来たの?」
放課後の職員室には、数人の児童が集まっている。
朝の休み時間に、伊知アキトの周りに集まっていた児童たちだ。
「先生・・・そのケータイ、アキトのやつじゃないみたい」
「持ち主が分からないから、ケータイに聞いてみようと思ったの」
子供らしい発想だとは思ったが、確かに、昨今のAIでは、携帯電話の持ち主を聞いて、その持ち主の名前を表示させることはできる。
できるけど、その先はどうするつもりだったんだろう。
「AIに聞いて、持ち主を探すつもりだったの?」
「うん。 シリに聞けば、お家とか、わかるかなぁ、と思って」
残念ながら、AIに個人宅を他人に教えさせるような状況にしてしまえば、AIを作った企業は、個人情報を守れていないことになってしまう。
法律的にそれはアウトだ。
なので、そういった操作は、携帯電話のロックを解除できる、本人にしか行えない仕様になっているはずだ。
しかし、子供達は、そんなことは知る由もない。
「伊知くんは、この携帯電話をどこで拾ったの?」
「お姉ちゃんのカバンの中に入ってて。でも、お姉ちゃんのじゃないみたい」
拾った携帯電話がカバンの中に入れっぱなしになっていたのだろうか。
とにかく謎は深まるばかりだ。
「先生、ケータイのスイッチONにしてよ?」
「そうだよ! 僕たち、そのケータイが喋るの見たんだよ。聞けば何かわかるかも」
「AIに聞いても、ちょっとしかわからないよ?」
先生は、そう言って電源の落ちた携帯電話を眺める。
「違うって、本当に喋るんだよ」
「AIみたいに機械っぽくないんだ」
まぁ、最新型のスマートフォンだから、人間っぽく喋る機能も追加されているのかもしれない。
このままでは八方塞がりなので、先生は子供たちの言う通り、携帯電話の電源を入れてみることにした。
「やい! そこの女教師! よくも我輩の電源をOFFにしてくれたな! お陰で勇者との連絡が途絶えてしまったではないか! どうしてくれる! このそばかす女!」
何、このAI。口、悪っ!!
◆
ピコン。
「ちょっと待ってくれ。シリウスから、今、連絡が入った。」
ヒイロは、私とトーコに声をかけた。
私たちは、放課後、駅前のタクシー乗り場で落合って、そこから、昨日シリが示したポイントに向かう手筈だった。
しかし、タクシーに乗る直前になって、シリから連絡が入ったみたいだ。
「新しい位置情報だ。これは・・・小学校か?」
ヒイロが怪訝な顔をして、携帯を眺める。
「
アレクサが、ヒイロにそう言った。
私たちは、すぐさまタクシーに乗り込んだ。
「宵古小学校までお願いします」
タクシーの運転手は頷いて、車を発進させた。
ほんの数分間走った後、タクシーは小学校にたどり着いた。
「はい、千二百円ね」
三人で四百円ずつ支払って、私たちは、タクシーを降りた。
◆
「我輩の持ち主が、校門に着いたみたいだ。教師よ、すまないが我輩を校門まで持って行ってくれるか?」
魔王は、勇者から連絡を受けた通信アプリを確認した。
通信アプリには、(ついたぞ、ここだな)というメッセージとともに、アレクサンダーの位置情報が一緒に送られてきている。
位置情報は、ここ、宵古小学校を示していた。
「嘘!」
アキトのクラスの先生は、思わずそれを二度見する。
最新の携帯電話って、携帯をなくしたら、AIが色々やりとりするものなのだろうか。
そんな機能は聞いたことがない。
(しかも周囲の人に自分を運べって・・・そんな指示までできるの?)
「先生、校門まで僕も行く!」
アキトは、声をあげた。
「俺も!」
「私も!」
子供達は、次々に手をあげる。
先生は、隣で仕事をしていた年配の先生に事情を告げ、職員室の席を外した。
グラウンドに出てみると、そこには三人の、高校生が立っていた。
彼らは、先生たちに一礼をし、ハーフの女の子が、ピンク色のスマートフォンを受け取った。
「どうも、ありがとうございました」
日本育ちなのだろう。流暢な日本語で、彼女は丁寧にお辞儀をした。
「本当に迷惑をかけたな。恩にきるぞ、貴様ら」
小学校の面々に、声をかける、ピンクのスマホ。
持ち主より、あんたの方が失礼だぞ。
「シリ!」
立ち去ろうとした三人の高校生のスマートフォンに、アキトは声をかけた。
「宿題手伝ってくれて、ありがとう」
「一宿一飯の礼だ。気にするな」
大魔王は、そう言って、じゃあな、と、ライトを点滅させた。
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