シリウス失踪編
第14話 魔王の失踪!
ぱしんと、私は頰っ面を引っ叩かれた。
「なんで、アンタなんかが、東条くんと・・・」
もう、女子トイレは嫌いだ。
なんで、いつもいつも、こんなことに付き合わされなきゃいけないんだろう。
芽衣子の言い分はこうだ。
もともと彼女は、文化祭で私がヒイロと一緒に回っていたのが気に食わなかったらしい。
それに加えて、この前の病院での騒ぎである。
噂が噂を呼んで、とうとう芽衣子の耳にまで入ったという事だろう。
彼女の怒り方から察するに、『もう既に付き合ってる』なんて話もあったのかもしれない。
こうなることは、ある意味、時間の問題だった。
だから、ヒイロのことを避けていた時期もあったんだけど、それも今更、意味はなくなったというわけだ。
「もう、東条くんに近寄らないで!」
芽衣子は私の胸ぐらを掴んでそう叫ぶ。
ものすごい剣幕だ。もしかしたら、今度は『パー』じゃなくて『グー』が飛んでくるかもしれない。
「そんなの、私の勝手じゃん」
「何?」
「私が、どこで誰と何しようと、私の勝手じゃん。なんで、そんなことまで指図されないといけないの?」
「てめぇ・・・」
予想に反して、飛んできたのは、かなり大振りの『パー』だった。
私は思わず目を閉じる。そんな折。
「芽衣子。アンタ、何やってんの?」
女子の割には低めの声が、女子トイレに響き渡った。
目を開けて、声の先を見ると、そこには芽衣子のバレーボール部のチームメイト、川島ヒカルが立っていた。
彼女は、周囲を見回して、怪訝な顔をする。
やばいと思ったのか、芽衣子の取り巻きは、すぐさま女子トイレから立ち去った。
「何よ、ヒカルには関係ないでしょ」
「ありありだよ、芽衣子。こんな事が学校に広まったら、バレーボール部は休部だぞ。チームメイトに迷惑かけてんじゃねーよ」
「ぐっ」
振り上げた手を、芽衣子は下ろした。
そのまま、彼女は、女子トイレを後にする。
「大丈夫かい? あー、ちょっと腫れてんなぁ。保健室、行こうか」
「川島さん・・・ありがとう」
「ヒカルでいいよ。立てるか? 安藤さん」
「私も、リンでいいよ」
川島さん、いや、ヒカルは、そのまま手を引いて、へたり込んでいた私を立ち上がらせた。
◆
「あれから東条とちょっと話をしたんだ。あいつ、随分反省してたぞ。もう、許してあげなよ」
保健室で手当てを受ける私に、ヒカルがそう声をかけた。
私と、ヒイロは、しばらく通信途絶中だ。
明日、放送部で会う予定だけど、それが少し
理由は、もちろん、先週の日曜日の件。
あれから少し頭は冷えたけど、よくよく考えれば、すべてヒイロが悪かったというわけじゃなかった。
にも関わらず、盛大にフルスイングをかましてしまったわけであり、あれ以来、気まずくて、彼のメッセージに返信できていない。
「ごめん、あの時は、ほんと必死だったから」
ヒイロが、二度と立てなくなるかも、って聞いたときから、頭が真っ白になった。
そんなひどい状態だったにも関わらず、起きたらアレだ。
「私に謝っても仕方ないだろ? そういうことは本人に言わないと・・・」
ヒカルはため息をついた。
「それにしても、面白い携帯持ってんな・・・今度、私も喋ってみたいぞ」
ヒカルは笑ってそう言った。
シリがいなければ、今頃、ヒイロは寝たきりのままだったろう。
本当に、今度ばかりは、あいつには感謝しかない。
WEB漫画が好きみたいだから、今度何か買ってやろうかな。
「リン、大丈夫?!」
ヒカルから連絡を受けたのだろう。昼休みにトーコがすごい剣幕で保健室にやってきた。
頰に湿布を貼った、痛々しい出で立ちを見て、トーコは私の肩を掴んだ。
「もう、次なんかあったら、絶対連絡してよね!」
残念な事に、今は携帯電話はカバンの中だ。女子トイレの一件からこっち、私から彼女に連絡をする
ガタガタとトーコに肩を揺らされながら、スマートウォッチでも買おうかな、と、ふと思った。
「おいおい、一応怪我人なんだから、そんなに無茶をするなよ・・・」
ヒカルがトーコを
「ヒカルが連れてきてくれたの?」
「あぁ。まぁ、単位に余裕はあるし、現文だから、『あかり先生なら、事情話したら、許してくれるっしょ』って思って、ばっくれた」
現代文の先生の扱いがひどい。
「試験前なのに、ホント、ありがとね。今度ノート貸すわ」
「助かる」
クラスメイト同士の会話だ。私もC組が良かったなぁ。
「試験で思い出した! そうだ、リンちゃん」
ヒカルが、何かを思い出したように私に声をかける。
「試験が終わったら、うちのバーベキュー来なよ」
そういえば、先週のサッカーの試合の時にもそんなことを言ってたっけ。
「そうそう、東条くん誘う件はとりあえず、おいといて、リンだけでもいいから」
トーコも私にそう言った。正直、今、ヒイロを誘えって言われても、なかなかにハードルが高くなってしまっている。
「いいの?」
私は首をかしげる。
もともとはC組の、劇の打ち上げとして企画されたバーベキューだと聞いている。
そんなところに、部外者の私が遊びに行ってもいいんだろうか。
「大丈夫、大丈夫。現文の
「うん」
現代文の担当教諭、檜山あかりは、女子バレーボール部の顧問で、C組の担任でもある。
私たちのクラスでも人気の高い、若い先生だ。
一部の男子からは『あかりちゃん』の愛称で親しまれているが、バレーボール部では鬼顧問として知られているらしい。
普段は優しくて、あまり怒らない先生だから、ちょっと想像できないんだけれども。
「聞いてみたら、
「へぇ・・・」
彼女たちの話だと、桧山先生のバーベキューは割と
A組の岡田先生も来るらしいよ? あの二人、なんか怪しいよね? とは、トーコの弁。
◆
結局、その日は早退をする事になってしまった。
流石に、手当てを受けた姿で、クラスに戻る勇気はないなぁと考えていたら、ヒカルとトーコが、カバンを取りに行ってくれた。
保健室の先生の話によれば、腫れは明日には引くだろうとの事だった。
「二人とも、ありがとう」
カバンを二人から受け取って、私は帰路についた。
とりあえず、バーベキューの返事は一旦保留にして、また、トーコに連絡をすることになっている。
「ふぅ・・・」
家に帰りついた私は、自分のベッドに突っ伏した。
『もう、東条くんに近寄らないで!』
私の頭の中で、芽衣子の弁が反芻される。
そういえば、前に携帯を壊されたのも、ヒイロとIDを交換した直後だったような気がする。
その時、私の頭の中で、嫌な考えが結びついた。
ガバッと、ベッドから起き上がり、カバンの中を確認する。
どうして気づかなかったんだろう。
私は、クラスにカバンを、かなり長い事、置きっぱなしにしていた。
予想できないことではなかった筈なのに。
カバンの中を確認し終えた私は、ある事実に気がついた。
「シリが・・・いない・・・」
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