第2話 先生、初対面

「地獄の補習刑罰教室は…、学園校舎内の一番すみっこ、第二ホール…」

放課後、先生に渡された補習の資料と自分の全教科のノート、魔導書とか魔法薬調合グッズ、筆記用具を手に、東洋風にいうと地獄の釜(補習)へのルートを辿る。覚えたての東洋の地獄の様子を脳内反芻はんすうする。ああああ…そんなあ…。先生に、無慈悲にも言い渡されたのは、1ヶ月間の放課後みっちり補習。しかもマンツーマンで。いやだぁ…。私は…熱い熱い鉄の棒で、跡を付けられるのか…(訳・赤い採点ペンで、チェックマークや0点をつけられてしまうのか…)。なるべく開始時間ぎりっぎりにつけるように、時計を見つつもゆっくりゆっくりと進む。この紙に書いてある先生…アウル・ウィゼトさん?一度も話したことも、授業を受けたこともない気がするんだけど、なんの教科の先生だろう?ていうかこの苗字、学園長と同じじゃん。親戚?兄弟か姉妹?優しい先生がいいなぁ。できれば、理知的よりは、ふんわりほわほわした優しい感じの人が…

ギィィイィィイィイィ。古めかしい音がして、第二ホールの扉が内側から開く。ここ、そんなにぼろいの…?あんまり使わないけど、何に使うの…?そして、扉から顔を出した、先生。

「あなたが、ミウェルナ・イルネさん…ですね。第二ホールへようこそ。ここがこれから、あなたの特別補習の教室となります。そして私が、学園長の推薦により講師役を務める、アウル・ウィゼトです。これから1ヶ月、どうぞよろしくお願いいたします」

どうぞ、と扉を開けてくれたのは、

「…どなた、でしたっけ」

綺麗なさらっさらのプラチナブロンドに、もともとなのか、笑っているような細い目。とんっでもない美少年。その先生、は…ローブを着て、生徒の格好をしていた。

「え、僕のことを、ご存知ない!?」

少年は驚いたように目を見開いた。…ん~?な~~~んか、すっごく見覚えがあるような気もする。けど…誰だっけ。

「…とりあえず、教室に入ってください。それじゃあ、まずは、自己紹介からはじめましょうか」

一瞬、なんか渋い顔をした気がしたけど、少年はすぐ笑顔に戻って、室内に入るようにうながす。へえ~、普段は全然入らないけど、第二ホールってこんなに広いんだ。もっと使えば良いのに、もったいない~…。

私が感心しつつ階段を降りていって、最前列…教壇と黒板のすぐ前に座ると、少年は教壇に立った。

「私の名は、アウル・ウィゼト。この学園の生徒会長をしています。まあ、ご存知なかったようなので、生徒会長なんて自己紹介でわかりませんよね」

困ったように、センターパートの前髪をかきあげる。おお、絵になる。かきあげるたび、プラチナブロンドがライトに反射して、キラキラキラキラしている。こういうのから色素抽出しきそちゅうしゅつできれば、綺麗な宝石やお洋服が作れるのに。需要ありそう…じゃなくて、生徒会長…

「あぁああっ!あのめんっどくさい朝礼で、ゆいいつ面白いポイントの超美形でモテモテで学園長の孫でリッチな生徒会長!」

そうだ!みんなが、会長が出てくるたびに失神しそうになってる、あのめんどい朝礼での、みんなの目の保養係…本名はぜんっぜん覚えてなかったけど、この人が!

「…いろいろくっついている単語はものすごく気になるところですが、まあ置いておきましょう。その生徒会長ですよ」

おおお、あの会長が…先生…………。

「会長がマンツーマン指導!?」

「そうですよ」

しれっと言うが、あの超を100個つけても足りないくらいみんなに大人気(特に女子に)の会長が、この私にマンツーマンで放課後補習指導!?…なんというか、かんというか、他の人(特に会長ファンクラブの方々)に知られたら、波風がすごそう…。

「というわけで、祖父の推薦すいせんにより、私が1ヶ月、あなたを指導します。終了時の確認テストでは、確実に赤点回避。その上で100点を目指していただきますので、そのつもりで。短い間ですが、精一杯頑張らせていただきます。よろしくお願いしますね」

にっこり笑った会長の笑顔は、お貴族様の作った完璧な笑顔に酷似こくじしていた。100点というとんでもない数字にどぎまぎしながら、私も挨拶を返す。

「…こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

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