魔法学校の補習生、スパルタコーチにしごかれ中。

辰巳さとか

第1話 落第寸前

「ミウェルナ・イルネ。HRが終わったら、すぐに職員室に来なさい」

…私、お呼び出し食らっちゃった…?

私、ミウェルナ・イルネは、魔法学校アゼルの一年生。いたって普通で、品行方正で健康な、自分で言うのもなんだけど、いわば優等生!である。ちょっと見た目は…うん、ぼさぼさの髪に、だぼだぼのローブで、まあ、ちょびっとアレだけど。でも、見た目とかどうでもいいし、関係ないし!なんなら、魔法薬学の成績は、学年、いやもしかしたら学校全体でも一番かもしれないくらい、つねに百点満点◎。…なのに、な・ん・で、職員室に呼ばれなくちゃいけないの?カバンに、教科書や薬学の本、宿題ををギチギチ詰め込んで、理由を考える。う~ん…な~んも思いつかない。さっさと帰り支度を終えて、クラスメイト達みんなから憐みの視線を向けられながら、教室を出て職員室へと急ぐ。一応、急いだほうが怒られにくいだろうし。ってかみんな、憐れまないでよね。なんて失礼な。

「失礼しま~す。せんせー、何のご用ですかぁ?」

うちのクラス、1ー4の担任である、ロマンスグレーのオジサマ先生…サウル・ローク先生は、ただでさえ深い眉間のシワをさらに2㎜くらいふかぁくして、頭を抱えて、ため息をついていた。ん、先生が持ってる紙って…成績表?

「あぁ…来たか」

ふっと椅子がうかんで、こちらの方に飛んでくる。

「そこに座りな。話はそれからだ」

おお、先生、脚組んで椅子指さしてるとどっかのスパイ組織のボスみたいだよ。キマッてるぅ~、かっこい~い、いぶし銀~。

「ありがとうございます。で、話ってなんですか?」

「ハァ⁉」

ガクッと、先生がずっこける。おいおい、やめてよ。エージェントみたいにカッコイイんだから、カッコよくあってほしいよ。それになんの話か聞いてないんだから、質問して当然じゃん?

「…イルネ。お前、ちゃんと返ってきたテストは見ているのか?」

「え、はい。見ています。前回は結構点数良かったでしょう⁉」

心底あきれたような、同情したような、湿度の高い視線が返ってくる。な、なにさ。蛇に睨まれた蛙って、こういうことなのかぁ。

「なあ。良かったって、前回のテストの点数覚えてるか?」

「ハイ!32点でした!」

堂々と胸を張って大きな声で答えると、職員室の先生みんな椅子からずるっとずり落ちた。ガシャンとかドカンとか、心配になるくらい破壊音がする。椅子と同時に、筆記用具やら、採点中テストの山やら、とにかくいろいろなものが落下したんだろう。そして先生たちは、声をそろえて叫んだ。

「32点⁉」

…なによ。いつもは人の点数を笑うなとか言ってるくせに。そんなに声揃ってるんだから、合唱でもやればぁ?

「と、このように、ふつうの者は32点を『いい点数』とは思わないわけだ。というより、お前ミウェルナ・イルネはクラス内、…いや、学年、学校内でも最下位なほど、点数が悪い」

え、私学年でも最下位だったんだ。ええ~…、落ちこぼれってこと?なんかヤダ…。

「私、魔法薬学のテストは絶対にいつも、常に、90点以上ですよ!最下位なんかじゃありません!」

「そうだな…。魔法薬学の成績だけは、学園全体でも一位だな」

でしょ!?他が悪くとも、魔法薬学『だけ』で挽回できるでしょ?

「だがそれ以外は学園全体でも最下位なくらいだ」

「ウソ!?」

私、そんなに成績悪かったっけ!?本当のことだよ…と首を振り、さっきよりさらに1㎜ほど深くなったと思われるシワを眉間に刻んだ先生。そ、そんなぁ…。

「そして、この学園全体の平均点は、84点で高めだ。毎回赤点で、補習受けてるだろ?」

そういえば、毎回受けている。補習メンバーいつも3,4人しかいなくて少ないから、てっきり平均点が低いんだと思っていたけど、あれ、単にみんなが優秀なだけ?

「そして、このままでは落第・留年する羽目になるだろう」

留…年…。≪留年≫成績の悪さなどにより、進級または卒業するにいたらず、現級を続けること。

「嫌ぁ―――――っ!」

思わず叫んでしまう。留年?嫌だ!魔法学校を卒業しないと、魔法薬の売買や薬草の輸入ができない!

「そうだろう?だからこそ、今日はわざわざ職員室にまで呼んだんだ」

そう言った先生が私の目の前に突き出したのは、なにかの書類。なになに…

『特別補習指導  赤点常習生ミウェルナ・イルネ 

(提案・推薦 学園長アゼイル・ヴィゼト)  講師…アウル・ヴィゼト』

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