第6話「エルフの食卓」

 非礼へのケジメと、自身の性癖全開バブバブ甘えっちを隠蔽するために、私タクオ・サトーはエルフの里………もといエルフ型セクサロイドの地底都市ヘリオスを守るために戦う決意をした。

 相手は、あのザクザク歩く量産型ロボット・タルカスだと仮定する。それを相手にするのであれば、私もそれなりの手段を持って挑む必要があった。いくら義体サイボーグでも生身でロボット兵器とは戦えない。そもそも私は戦闘用サイボーグではないので、ゴリラパワーで多脚戦車の装甲をこじ開けられなければ、滅びた異星文明で生まれた勇者なライオンロボも呼び出せない。それでも戦う手段が必要だった私は、とりあえずこのヘリオスに使えそうな物が無いか探す事にした。そしてたどり着いたのが、機械類の修理をやっている所謂「ジャンク屋」の一つ。

 ティファの知り合いが経営しているというそこは、ヘリオスの片隅に隠れるようにひっそりと建っていた。腕は確かだが、個人経営のため目立って客が大挙して来ても困るからとの事。

 

「えっと………あなたが店主で間違いないですか?」

「そうだよ。それともアタシじゃ不満?」

「ああ………いや、別にいいんだけど」

「へへっ、なら結構」

 

 普通ジャンク屋の店主と言うと気難しい老人だとか、元気ハツラツなニュータイプ少年と相場が決まっている。が、そこはセクサロイドの惑星であるX9500。店を切り盛りしているのもセクサロイド………つまり、これも美少女だ。しかし、彼女はヘリオスにいるような他のスタンダードエルフ型セクサロイドとは少し違っていた。

 彼女は名を「ミューティ・スイートリバー」と言った。セクサロイドとしての種別はドワーフ型であり、なるほど、背はただでさえ低い私よりも低く、140以下に思えた。肌は褐色でぱっちりした目は赤く、ティファ達西洋人………差別用語で申し訳ないが、白人ベースのエルフとは対照的に、ブラジルや南米方面を祖に持つ人種に近い特徴を持つ。髪も黒いドレッドヘアをツインテールにしており、低身長と並んで少女的。

 ただ、彼女には一番の特徴があった。乳房おっぱいである。排熱のため開いた作業着から飛び出したそれは、ティファのそれをメロンとするならさながらココナッツである。それは乳房が詰め込まれてギチギチに引っ張られた白いスポーツブラに、見事な黒い北半球と乳袋を形作っていた。

 

「ついてきて、貴方に見せたいものはこの先にあるから」

 

 私がこの店にやってきたのは単なる買い物の為ではなく、彼女が私が「敵」と戦うための重要な戦力になる物を偶然手に入れたからと聞いたからだ。乗らない手はないと、私は彼女の案内に従い、ジャンク屋の汚れた店内の更に奥へと歩いてゆく。

 後で知ったのだが、どうやらこの惑星X9500は惑星軌道の都合上にあるらしく、ちょくちょく宇宙ごみの類が流れ着いているようだ。だから彼女のようなジャンク屋は商売を続ける事が出来ている。もっともそのせいで「敵」に見つかったとも言えるが。

 しかし私が気になっていたのは、ミューティーの胸元………いや、下手に紳士ぶるのはやめよう。私はミューティーが歩く度にゆさっ、ゆさっ、ぷるんといやらしく揺れる爆乳から目を離せないでいた。仕方のない話だ、私の目の前で起きていた事だったし、褐色肌という健康的エロスと小柄な体型にぶら下がる豊満というアブノーマルなギャップは、私の海綿体を充血して硬く勃起させた。

 

「………お客さぁん?熱い視線を送ってくれるのは嬉しいけど、夜のお誘いは後にしてくれない?」

「あっ、いや………ご、ごめんなさい」

「いいよ別に、ふふふ♪」

 

 そして、そんな私の欲望に満ちた目線はミューティーに見透かされていた。平謝りする私に、ミューティーはイタズラっぽい微笑みで返した。たしか昔にネットで見たが、旧文明においてこういうのは「小悪魔」だとか「メスガキ」と言ったらしい。

 私は、すぐにでもミューティーの小さな身体を持ち上げて怒張をねじ込みたいという欲を抑えながら、彼女の後に続いて店の奥に鎮座してあるヒトガタの前にやってきた。その5mはある巨体を前に、私は先程の性的興奮が吹き飛ぶほどに息を呑んだ。タルカスのようなヒトガタではあったものの、全体のデザインはタルカスより遥かにシンプルであり、大昔の潜水服をそのまま巨大にしたような、ずんぐりむっくりした外見をしていた。タルカスをリアルロボットの量産機とするなら、このヒトガタは原初のスーパーロボットと言った所か。

 

「驚いた?こいつはウォーロック。ちょっと前に宇宙ゴミデブリと一緒に落ちてきたんだ。見た目は野暮ったいが、立派な戦闘ロボットよ」

「戦闘ロボット………動くのか?」

「時間とパイロットさえ居れば、ね」

 

 ウォーロックは時系列的に後発の機体であるが、戦闘機械としての基本性能はタルカスとどっこいどっこいだと言う。加えて装甲はこちらの方が厚く、その分対決する場合ウォーロックの方が有利と言えた。無論、それだけで勝ちが確定する訳ではないが、巨大なヒトガタを相手にするのだから自分も巨大なヒトガタを用意しなければ戦いのスタートラインにも立てない。

 

「シュミレータはこっちだから好きに使っていいよ」

「ありがとう、恩に着る」

「ティファによろしくね、フフッ」

 

 まるでゲーム筐体のような操縦シュミレータは、ブルーオークに居た頃から何度も目にしているし、乗った事もある。しかし、戦闘シュミレータとしての使用はこれが初めてである。

 緊張しながらハッチを開く私を見送るミューティーの顔は、幼い顔立ちからは信じられないほどに淫靡に満ちていた。彼女もまたセクサロイドなのだと思いながら、私はバーチャル空間に広がる練習フィールドに懐かしさを感じながら、操縦桿を前に倒した。

 

 

 ***

 

 

 戦闘訓練は当たり前であるが、採掘や工事のそれとはまるっきり異なる。より素早く相手を攻撃するために特化した戦闘ロボットは重機よりも遥かに敏感に反応するし、シミュレーションの中の相手は資材と違ってこちらが腕を上げるまで待ってくれないのだ。

 私は何度も撃墜され、何度も出撃した。旗から見ればロボット物のアーケードゲームで遊んでいると勘違いされそうだが、間違っても楽しくはなかった。実戦で負けてもコンティニューは出来ないし、何より死ぬのだから。

 死にたくない私はシュミレータにかぶりつき、ついに一勝もする事もなく、あまりの疲労ぶりにミューティーから帰れと言われてジャンク屋を後にする事になった。

 

「はあ………疲れた」

 

 しかし、帰りに道にそんな事が言える余裕を見るに、ブルーオークのあの身の毛もよだつ重労働と薄給による人権侵害ろうどうよりはマシなのだと思えた。いや、あの船での酷使とこの星での休養により、自分に体力が作られてきているからこう思えるのだろう。

 疲労に加えて街の至る所にいるセクサロイド達の理想的な女体を前に股の間に血が溜まる感覚を抑えながら、私はソフィーティア女王から自室として与えられた、王城の客室へと帰ってきた。ブルーオーク時代の狭い個室に帰ってきた時のように、誰もいない自室の扉を私は疲れた腕でゆっくりと開ける。

 

「………はあ」

「おかえりなさいませ、タクオ君♪」

「はああ!?」

 

 そしていきなり聞こえてきたウィスパーボイスにひっくり返りそうになった。誰だ?まさか空き巣か?と身構えた私が次に見たのは、見覚えのあるブロンドの髪と翠色の瞳、そしてエプロンに覆われた豊満な乳房。

 ティファ・ユグドラシルだった。なんとなく、あのロボット兵器タルカスを打ち倒すまでは会う事もないと思っていたスタンダードエルフ型巨乳美少女セクサロイドが、その葉で作ったボディコン衣装のような露出の高い格好の上からエプロンを着るという、旧時代の「水着エプロン」と呼ばれる唾棄すべき汚らわしい男の欲望ロマンの一つを彷彿させる格好でそこにいた。その時の私には困惑しかなかったが、状況を確認するためにミキサーにかけられたような脳から必死に質問を絞り出した。

 

「こ、こんな所で何をしてるんです?」

「ふふふ、お母様からタクオ君の身の回りの世話をするように任命されたんですよ。つまり私は、タクオ君の専属お姉ちゃんセクサロイドというわけです♪」

「いや、わけわかんないよ!?」

 

 専属お姉ちゃんという言葉の意味は解らなかったが、ソフィーティア女王は私を友好的な仲間と認めてくれたのだろう。長期滞在に至って、慣れない生活を送る私にティファを従者として私につけてくれた。

 今この惑星で一番私の事を知っているであろう彼女は適任と言えるが、私としてはタルカスを倒すという一つのケジメをつけてから会いたかったというのもあり、微妙な気持ちになったのも事実であった。

 

「さあ、タクオ君は座っていてくださいね。お姉ちゃんが晩御飯作っちゃいますから」

「ええ、あ、ええ???」

 

 ほぼ押される形で、私はテーブルの前の椅子に座らされると、おそらく彼女自身が持ち込んだのであろうコンロやら鍋やらで、ティファは中断していたのであろう料理の続きを始めた。

 コトコトグツグツと何かが煮える音と共に、スパイシーな香りがこちらに漂ってくる。即席で作られたキッチンに白米製造機………デンプンを合成する事で白米を作る、日系人向けに作られた炊飯器のようなガジェットを見つけ、私は彼女が何を作っているか気付いた。

 短いスカートからチラチラとパンツが見え、エプロンを引っ張って後ろから見える乳房に目が行く彼女の背中を前に、私は疲労からの食欲とはまた別の欲求が湧き上がってくるのを感じた。股に血が溜まり、生理現象が怒張を持ち上げるのを感じた。仕事の後に見せられるのがプリンとした肉付きのいい女体ならそうなるのも仕方がない。

 しかし、生理現象で正当化してはならない礼儀もある。何より自分は彼女に考えなしで発情できる立場に無いだろう。私は自分の本能を責任と倫理観の棍棒で叩き潰して黙らせた。なのに怒張は未だ立ち上がったままだった。役に立たない倫理観だ。

 

「さあ、カレーライスができましたよぉ♪」

 

 そんな私の苦労を他所にティファは笑顔で皿に盛られたカレーライスを持ってきた。惑星X9500のイノシシの肉の入った、少々ワイルドなカレーライスだ。鼻腔を突く肉とスパイスの香りが、私の食欲を刺激する。

 ………手料理。かつて、女が男に手料理を作るというのは好意を伝える上で最も効果的だった手段の一つ。同時に女性の尊厳と誇りを傷つけ、女性=家庭的という偏見を増長するとして徹底的に糾弾され、廃れた行為の一つ。今の宇宙せけんにおいて女性に手料理を作って貰いたいというのは最も失礼な言動として認知されている。今の時代、子の母親ですら手料理を作らないのだ。私の母親も。


「………いただきます」


 私もそんな環境で育った。だからティファが私のためにカレーライスを作ってくれたという事自体は嬉しかったが、それよりも私は何か酷い事をしているのではないか?という罪悪感の方が勝った。

 しかし出された食事を食べないというのも別ベクトルで失礼である。私は恐る恐る、スプーンを手に取る。そして白米とルーの境目を混ぜて、口に運んだ。

 

「………おいしい」

 

 思わず感想が口から漏れた。上記の理由で誰かの手料理を食べるという事自体生まれて初めての事だったというのもあるのだろう。が、それを差し置いても彼女のカレーライスは恐ろしく美味であった。

 辛さ、甘さ、食感。その全てが今まで食べた中で最高だと思えた。少なくとも、週一の楽しみにしていたブルーオークの食堂で出る具の少ないスープのようなカレーとは月とマントルの差があった。私は無我夢中になって、カレーライスを口にかき込んだ。

 

「本当?よかったぁ………プログラムを実行したのは初めてだったから、上手くできるか不安でしたけど、タクオ君が喜んでくれてお姉ちゃんは満足です♪」

 

 そんな私を見て、ティファもカレーライスをよそいながらニッコリと微笑み、私より遅いスペースであるがカレーライスを口に運んだ。

 ………セクサロイドを含めたアンドロイドが、人間のように食事の経口摂取と分解によりエネルギーを補充できるようになったのは、私が生まれた前後の事らしかった。もっとも通常の充電によるエネルギー充填をメインとした時のサブシステム的な扱いな上に、完全にエネルギーとして使われるために人間のように排泄物も出ない等の、人間性的に不完全なシステムではあるが。

 さて、私はこれまで安心して食事をした事が無かった。私にとっての食事とは、幼少の頃は食卓で両親から友達がいない事や運動の下手さをあげつらわれる会場であり、ストレスで味がしなくなった食事を素早く口にかき込み、いち早く自室に逃げ帰るというイベントだった。ブルーオークにおいても生命維持のため以上の意味は持たず、長引かせるとアニメを観る時間が減るという側面からさっさと終わらせるのが日課だった。

 だが、これはどうか?ティファと囲む食卓というのは安心と温もりに満ちた、もしかしたらアニメを観ている時間よりも遥かに心地のよい時間に思えた。安心して食べる食事がこんなにおいしい物だったのかという感情は、私にカレーライスを更に口に運ばせた。

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幻想惑星X9500 負け犬男が不時着した惑星で爆乳セクサロイドたちを守りつつハーレムする話 @hentaibanzai

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