除霊以外は、承ります
アクナシ
No.84 アパート調査
──なんだ、この
それは、5月の雨が降る夜のことだった。
その日の仕事を終え、くたくたになって自分の部屋へと帰ってきたトウカは、部屋に漂うな異臭に顔を
電気もつけていない真っ暗なワンルームに、どこからか悪臭が漂っている。
まるで死んだ魚を何日も放置したような、汚物の溜まった公衆トイレのような、腐敗臭と生臭さが入り混じった臭いだ。
臭い自体はそこまで強くはないが、決して気のせいではない悪臭が部屋中に蔓延している。
──おかしいな。キッチンやバスルームの排水口は、先週掃除したばかりなのに。
部屋の電気をつけ、手を洗いつつ臭いの元が何なのか思索するが、思い当たる節はない。トウカは綺麗好きだった。
小まめな掃除は当然のこと、ゴミ袋の中身が溜まってなくてもゴミ捨ては毎週キッチリ行うし、ベッドシーツの類も清掃を怠ったことはない。
部屋の
友人からは『ケッペキショー』と揶揄われることもある。
しかし、トウカからすれば髪や肌の手入れをするのと同様に、自分の部屋を常に清潔にするのは当たり前だった。
だからこそ、この異臭の原因がわからない。
「自分がこんな不快な悪臭源の存在を、己のテリトリーの中で許していたわけがない」という絶対的な確信が、トウカにはあった。
原因が部屋の内部ではないとすれば、外部の可能性も考えられる。
この雨で水道管の下水が逆流でもしたのか。そのせいで排水口から臭ってきているのかもしれない。
もし今後もこのニオイが続くなら、管理会社に連絡しなければ。
辟易とした気分で鞄をクローゼットに片付ける。最近は仕事で残業が続いており、自宅くらいはリラックスさせて欲しかった。
──とにかく、まずは換気しよう。
トウカの部屋は安アパートの2階にある中部屋のため、窓は無い。
トウカは空気清浄機の電源を入れると、外気を少し取り入れるためにベランダへ繋がるガラス戸に近づく。
ワンルームの1人用の部屋では、バランだと言っても猫の額ほどの広さである。洗濯物を干すのがせいぜいのスペースだ。
ガラス戸を開ければ雨夜の湿気った空気も部屋に入って来てしまうが、この際仕方がない。割り切ってリビングとベランダを仕切るカーテンを開き、ノクターン錠のつまみを回す。
ガラス戸の外には、何もない夜の暗闇が広がっている。
取っ手に指をかけ一気にガラス戸を開けたところで、それと目があった。
女がベランダに立っていた。
髪の長い、スーツ姿の女だった。
女はずぶ濡れで、黒髪と服が体に張り付いている。
その顔には喜怒哀楽の何一つとして表れていない。
やや猫背な姿勢のまま、虚ろな目と半開きの口で、女はぼんやり部屋の方を見ている。
女とトウカは、ほんの1メートルもない距離で向かい合う。
戸を開ける前は、ガラスの向こうには誰も見えていなかった。
なんで、どうして、誰だ。
外気を取り入れたにも関わらず、先ほどの悪臭が強く鼻についた。
この女だと、トウカは直感した。
部屋に漂っていた臭いは、この女の体から生じていたのだ。
女は部屋の方を見ている。トウカの方を見ている。
私の部屋の方を見ている。私を見ている。
人生で聞こえたことがないほどの絶叫が、耳の鼓膜を貫いた。
それが自分の喉から生じている声だと、トウカはすぐには理解出来なかった。
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