第11話

サラとアカネと別れた後に俺はダンジョンの5階に来ていた。

ゴロウたちは5階の強敵モンスターが見たいと言っていたのだから、5階に居るのだろう。

仮に4階に居るのだとしても、4階ならゴロウのレベルでもなんとか倒せるモンスターばかりだ。

いや、強敵モンスターやレアモンスターが出現していたら無理か。

こんな時にそんなラッキーが起こらない事を祈ろう。

6階やその先に進んでいる事もあるかもしれないが、その場合はもう助けは間に合わない。

とにかく、居る可能性の高い5階を探す。


のだが、5階に降りた後に、俺は気づく。

強敵モンスターとだけ聞いたが、どんなモンスターで、何処にいるのか?

ギルドの掲示板に詳しく載っていると思うんだが……。

さっきもそうだが、地図を持たずに道もわからない3階を探し回ったり、動けばどうにかなると思ってる節があるな、俺は。

……落ち込んでいても今更仕方がない。

5階は3階と違っていつも来ていた所だ。

一年程のブランクはあるが、道は大体頭に入っている。

大体と言ったのは、ダンジョンは増殖するから。

1年間に新たな道ができている可能性はある。

大抵はそこまで広くは広がらないから、新たな道があっても捜索には問題ないと思う。

まあ、どう言う原理で広がってるのか不明だから、急にとてつもなく広いダンジョンが現れる事もあるだろうけど。


……考えれば考えるほど、一旦ギルドに戻るか、ダンジョンの入り口の警備をしていたコタニに聞けば良かった。


いや、サラと3階で別れる時に聞くのが一番早かったんだ。

ただ、サラに避けられてるから聞きづらくて……。


本当は、サラが綺麗で。

何かを守ろうとする様に健気に俺を避けて横を向く姿が愛しくて。

話し掛けられなかった。


俺がダンジョンを、仲間を、避けていた期間に、サラは綺麗になっていたんだな。

アカネといい、別人の様に見えてドキドキしてしまう。


こんな理由で状況確認も出来ずにゴロウたちを助けられなかったら間抜けだ。

オレンジの竜との戦いでの情けない姿をちょっと克服できそうだったのに、それ以下のやらかしじゃないか。

ハハ……。


笑い事じゃなく、どうすればいい?

今から戻ってダンジョンの入り口のコタニに情報を聞いていたら、その間にアカネとサラが戻って来るだろう。

それから一緒に五階まで戻って探し始めるのと、

ここで2人を待ってサラから情報を聞いて探し始めるのと時間は変わらない。

アカネは俺と対の鈴を持っているから、迷わず俺と合流できるのだから、少しでも捜索を進めていた方がいいだろう。


俺は自分の腰に巻きつけたアリアドネの糸に触れる。

3階ではほとんど移動してないから、まだすっかり残ってる。

この糸の使用者には別のアリアドネの糸の光の筋が見える。

俺には別のアリアドネの糸の光の筋が見えるはずだが、今は何も見えない。

と言う事は、ゴロウたちはアリアドネの糸を使っていないか、持っていない。

あるいは別の階段を使った可能性もあるな。


4階への階段は一つしかない。

一つであるからこそ、この香夜温泉のダンジョンは観光客を受け入れるなんてことが出来ている。

通路が一箇所だから、観光客のいる3階までと、生態系が違う危険な4階とは簡単に行き来が出来ない。

何故、3階と4階でこれほど危険度が違うのかは分からないが、人間もモンスターも移動が制限されているから、3階までは安全な観光地として存在できているのだ。


一箇所、ダンジョンの入り口には直接4階に繋がる道があるが、警備がいるし、コタニが言うにはゴロウたちはそっちには行っていない。


だから、ゴロウたちは3階からの階段で4階に来てた。

その唯一の4階の階段でもアリアドネの糸は使われていなかった。

サラが居なくなって5階に行けるチャンスだから、急いでいて使う暇がなかったのと、慣れた道だから使う必要を感じなかったんだろう。

俺も慣れた道じゃ使わないしな。

で、4階もゴロウたちは訓練で慣れているから使わなかったんだろう。

ゴロウたちのレベルなら苦戦するのは5階からだな。

5階も訓練で来ているから、慣れている場所もあるだろう。

例えば、この階段から近くの太陽石のある安全地帯へは訓練なら必ず行くだろう。

安全地帯からは気持ちが落ち着いて、地図が分からない事を思い出して、アリアドネの糸を使ったかもしれない。

使ってくれていると助かるんだが。


考えながら俺は急いで太陽石の元へ移動する。

しかし、ここにはアリアドネの糸の痕跡はなかった。

俺はがっかりしたが、仮に光の筋があったとしても、それがゴロウたちのものとは限らない。

観光客のいる階層と違って少ないが、冒険者などが探索や素材集めで出入りしている。

その時々で人気の階層があったりするが、5階は今どうなんだろうか?

強敵モンスターが出現中なら、命知らずの冒険者が集まっていれば人気になっているはずだが、モンスターの種類によっては逆に人が居なくなっていたりする。

ダンジョン内は広いから人が多くても中で人と会うことなく過ごせるから、人手が多くてもゴロウたちと鉢合わせしている可能性が薄いが、人が居てくれたらと思う。

とにかく情報不足だ。


ここにアリアドネの糸が使われた痕跡がないとすると、可能性は3つ。

持っていないのか、使うのを忘れたのか、ここを通らなかったのかだ。

持っていない、使うのを忘れていたではなんの手掛かりにもならない。

とりあえずは、使ったがここは通らなかったと仮定して行動しよう。


4階に降りてすぐそばにあるのがこの5階への階段だ。

5階へ急いでいるならこの階段を使うだろう。

訓練の時に使うのもたいていはここだから馴染みがあるはずだ。

それを使わなかったと言うことは、何か目的があったのだ。

見たいと言っていた強敵モンスターに近い階段に行った。

じゃあそこでは使うか?

強敵モンスターの近くだ、使うだろう。

こちら側と比べたら、ゴロウたちにとっては馴染みのない場所だ。

だから、階段を探せばアリアドネの糸があるはずだ。


いや、ないかも知れないんだが、闇雲に探すよりはいいだろう。

他に3箇所ある階段を回る。

頭の中にある地図で階段を3箇所、最短距離で回れるルートをシュミレーションする。

3階と違って、ここの敵は攻撃的だ。

俺にとってはそこまで苦戦する相手じゃないが、いちいち相手していたらキリがない。

無駄な戦闘を避けて早く進みたい。


俺は走って駆け抜ける事にした。

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