第8話

左右に分かれて探している二つの捜索隊の道は奥出繋がっているのだ。

全部を一つの捜索隊が回っていればあり得ないミスだが、左右に分かれて捜索していると、相手のチームが探すだろうとお互いが考えて、お互いの領域を繋げる道を見逃しているかもしれない!

自分の昔の探索を思い出しても、そう言うミスは結構あった。

「捜索されてたら無駄足だけど、上の方にサラがいれば捜索隊が探してるから見つかるのは時間の問題だ。でも、もし、下にサラがいた場合は、上の捜索が終わった後に改めて3階を1から探す事になるからいつになるかわからない!」

走りながら俺が言うとアカネも同意する、

「うん、確認するだけでもしよう!走って行けばすぐに着くよ!」


「あ、シロウ!」

アリアドネの糸の赤い光の筋を追って走って進むとすぐに分かれ道が見えてくる。

しかし、光の筋は片方にだけ伸びていて、心配通り、やはり捜索から漏れていたらしい。

サラがここにいるとは限らないが、いるなら不安がっているだろう妹を早く安心させてやりたくて歩みが早くなった。


「泣き声だ!」

また、アカネが叫ぶ。

少し通路に入った所で赤ちゃんの泣き声のようなものが聞こえてくる。

泣き声は2人分で、双子の赤ちゃんのものだろう。

俺たち2人は更に全力で走った。


「サラー!」

「サラちゃん!」

2人で叫ぶと、サラにも聞こえたのか、微かに声が聞こえる。


「……で……」


「私は、ここです!」

ハッキリとサラの声が聞こえたと思ったら。細く薄暗い通路の途中に姿がはっきりと見えて来た。


「……兄さんっ!」

通路に座り込んで涙目になっているサラが俺を見て言った。

助けに来たのが俺だとは思わなくて驚いている。


ーーああ、久しぶり、サラだ。

ずっとダンジョンから離れた時も、大学でも忘れた事はなかった。

俺の心にずっと深く傷を残したサラ。

あの日、オレンジの竜と戦った日と変わらない、憂を帯びた不安そうな表情をしている。

サラの両脇には泣いている双子の赤ちゃんがいる。

今はダンジョンで赤ちゃんと3人きりの心細さが、サラに不安な表情をさせているのだろう。

ずっと変わらないショートカットの髪は、前髪が重く、活発さより儚げな印象を与えている。

細い体にまとう回復士の衣装は、白い長いワンピースの上に、聖職者の様な模様が施された長い布を前後に垂らしている。

両脇には赤ちゃんを抱いた姿は聖母の様でもあった。

サラの儚く揺れる瞳に、俺が写っている。

俺はこの瞳に自分をどう映して欲しいのか?


「だいじょ……」


「サラちゃん!大丈夫!?」

少し遅れてアカネがやってくる。

「ア、アカネちゃん!」

と、俺の顔を見た時とうって変わって嬉しそうにサラが笑う。

俺はちょと傷ついた。

「赤ちゃんたち、泣いてるけど怪我はないよね?」

アカネがサラに尋ねる。

「うん、さっきまでは元気で2人で別の方に歩きだすから、太陽石のある広場まで行こうと思ったのに全然進めなかったの。でも、急に泣き出したけど、どうしてなのか分からないの……」

と、サラはアカネに助けを求めている。

「た、大変だったね、サラちゃん。双子ってみんなこんな元気なのかなぁ?泣き出したのは、多分お腹が空いたとかオムツが汚れたとかだと思うけど、赤ちゃんの荷物も預かってるから大丈夫だよ。ね、シロウ」

「ああ。荷物はあるが、広げるにはここは狭いからさっきの広場に戻ろう。俺とアカネが一人づつ走って運べばすぐに着くだろ」

傷ついている場合ではなく、兄としての威厳を保つため俺はしっかりした声で言った。

サラはアカネと話していた顔を横に向ける。

「私は後からついて行きます……」

俺の方を見ずにサラが言う。


ーーあなたの事、兄と思った事はありません。


あれは、まだ、サラの中では続いているらしい。

俺の中でもまだ吹っ切れていないが。

けど、サラがどう思っても、俺は多分ダンジョンの冒険が好きなんだと思う。

久しぶりに入ったダンジョンの空気と道具がみせる不思議な現象に、今朝まで東京で暮らしていた事が嘘のように、俺の心はダンジョンに戻っていた。

サラと双子の赤ちゃんには悪いが、サラの居場所を考える謎解きや、モンスターの気配にもっと強い奴と戦う時の高揚感が懐かしく、ワクワクしている。

俺はきっと諦めない。

サラにどう思われていても、関係ないんだ。

ただ、目標にするだけ。

サラに認めて貰える冒険者になる!!


「うわあああん」

「きゃああああ」

と、とにかく赤ちゃんは2人とも泣き止まない。

サラが負ける事はないとは言え、泣き声でモンスターを呼び寄せたら大変だと思ったのだが杞憂だった。

泣き声のうるささにモンスターは逆に寄り付かなくなっていた。

俺も狭い通路での双子の泣き声の共鳴にこの場を離れたくなるが、急いで俺とアカネで双子を抱えて走って広場まで連れて行く。

「荷物じゃないんだからね!優しく落とさないでね」

アカネが走りながら叫ぶ。


足の先、膝くらいの身長しかないくせに赤ちゃは意外と重かった。

走るのに問題になるような重さじゃないが、ギルドで戻した道具をそのまま持って来ていたら走るのが相当辛かっただろうな。


自信を無くしていた俺は、相当な奇行に走っていたなぁと、我ながら情けなかった。

ここから、もっとしっかり考えよう。

サラに会う事に尻込みしていたが、サラがの顔を見て、俺は相当に力を貰ったらしい。


走っているとすぐに広場に着いた。

泣いている赤ちゃんたちは抱っこされて走るのが楽しかったのかいつの間にか泣き止んで笑っていた。

ジェットコースターとかそんな感じの乗り物だと思ったのか?

ダンジョンの落とし穴も気に入ってそうだなぁ。

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