第7話梅雨を感じるもの
梅雨を感じるものをいくつか挙げてみる。
まず、雨が多いの。
最近は、気候変動が著しく、その為に、熱帯雨林でお馴染みの『スコール』がよく降る。私の子供の時分の『シトシト雨』は、あまり降らなくなった。特に、この『スコール』は、時期をわきまえず、いつでも降るようになってしまった。
ここ最近、天気予報が当てにならない、変な天気が多い。
それから、花で言えば、青い『紫陽花(あじさい)』。これは、言うまでもない。紫陽花の花言葉は、古くから、『移り気』『浮気』『無常』等といった意味がある。
これは、『紫陽花(あじさい)』の花の色が変化することから言われている事だというが、この為に、古典の和歌では『紫陽花(あじさい)の花』を詠んだ物はほとんど見かけない。何故か?実を言うと、特に、恋歌のジャンルに於いて、『紫陽花』の花は、『心変わり』を想起させる花であり、その為『紫陽花(あじさい)』を歌に詠む事すら忌み嫌われて、縁起が悪い、とされた。
つまり、古典の世界では、『紫陽花(あじさい)の花』は、タブー視されていたのだ。
あと、違う花で言えば、『南天(なんてん)の白い花』。これは、梅雨に入ると、いつの間にやら、まとまった白い小さな花を咲かせて、気づいた頃には、あっという間に花を風に吹かれて、ほろほろと散らせてしまう。そういった、『儚(はかな)い花』の意味では、『桜』と似ているかもしれないが、自分はこの、風に飛ばされて、地面に散り敷いた『南天(なんてん)の白い花くず』を外箒で掃き清めるのが、昔の自分の、細(ささ)やかな愉しみで、『紫陽花(あじさい)』とは違った意味で、一番色濃く梅雨を感じる……。
ただ、お手入れはそれなりに大変である。
葉のついた枝、幹も、伸びるのが早い。あっという間に伸びて、直ぐに、大きくなってしまう。自分で枝を切るのがとても難儀である。
おまけに、灰色の身体に、橙色(だいだいいろ)の点々模様の付いた、頭に角のような物が2本生えた毛虫(これは、触ると痒(かゆ)くなる害虫なのだそうだが)もくっ付き、これらを一匹ずつ殺していくのが気持ち悪いので、薬を撒(ま)いたり、他人を雇って、手入れをしてもらったりしていた。そのままにしておくと、毛虫が玄関から入って来るので、放置が出来なかったのである。
そういった、正に、『難点』もある『南天(なんてん)』の木ではあるが、それ以外に良い点がいくつかある。
まず1つ目は、花がとうに終わり寒さ深まる冬の最中、鮮やかな赤い実を沢山付ける所(最近は、白い実をつける品種もあるらしい)。これが、梅雨時の白い花に負けず劣らず、赤味がかった緑色の葉との美しい色の響き合いが見事である。
2つ目に、南天(なんてん)の花言葉は、『私の愛は増すばかり』『機知に富む』『福をなす』『良き家庭』といった意味もあり、贈答用にも用いられる。また、『福をなす』という花言葉から、南天(なんてん)はとても縁起が良い植物なので『お正月飾り』にも用いられる。南天が赤い実を沢山付けることから、『商売繁盛』や『富をなす』の意味もあり、用いられる所もあるそうだ。
3つ目には、南天(なんてん)の果実、葉、茎、根が生薬となり、特に、果実を乾燥させたものを『南天実(なんてんじつ)』と呼び、咳(せき)や喉(のど)の荒れに効く作用があるとの事。そういえば、『南天のど飴』という咳止め(せきどめ)の飴(あめ)が、薬局で売りに出されている。これも、南天の薬効を利用したものであろう。更には、葉の部分。ここには、解毒・殺菌・防腐作用がある。その為に、『お節料理』や『弁当』に添えられている理由にも納得がいく。
なにはともあれ、良き事盛りだくさんの南天(なんてん)であり、南天の花言葉にも、怖い意味は無いようで、誠に縁起が良い植物だ。
この他にも、他人によりけり、『梅雨を感じるもの』、色々あるとは思うが、自分が梅雨を色濃く感じ、意識するのは、『雨』『紫陽花(あじさい)』『南天(なんてん)』の、3つである。
『梅雨を感じるもの』(おしまい)
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