第20話 最後の勝利

夏の陽射しが、窓越しに体育館を照らしていた。

蒼馬たちの高校最後の大会、バスケットボールの決勝戦。

応援席は熱気と歓声に包まれ、その中で月瀬愛華は、両手を胸の前で固く組みながら見守っていた。


蒼馬の動きは、どこまでも真剣で、どこまでも美しかった。

汗まみれの横顔に、何度も息を飲む。

仲間と声を掛け合いながら走るその背中は、愛華にとってただの「好きな人」じゃない。

誇らしくて、誰よりも輝いて見えた。


そして迎えた、試合終了のブザー。

点差はわずか。蒼馬の放った最後のシュートが、勝敗を決めた。

「優勝──!」


瞬間、ベンチから飛び出す仲間たち、割れんばかりの歓声、涙ぐむマネージャーたち。

そのど真ん中で、蒼馬はキョロキョロと観客席を探す。

見つけた。

愛華の姿を。


「……っ!」


走った。誰よりも速く、誰よりも真っ直ぐに。

ユニフォームの背番号が揺れる。

観客の間をすり抜けるように、愛華のもとへ駆けてくる。


「蒼馬先輩……!」


目の前に立った彼は、全身汗と熱気にまみれていた。

でも、目だけはまっすぐに彼女を見つめていた。


「……優勝した。最後まで、やりきった」


言葉が終わらないうちに、彼は愛華をそっと抱きしめた。

驚きと喜びと、胸いっぱいの想いが一気に押し寄せて、愛華は蒼馬の背中に腕をまわした。


「……おめでとう。すっごく、かっこよかった」


「ずっと見ててくれた?」


「うん。……誰よりも、ちゃんと見てた」


蒼馬の肩が小さく震えた。

感情の波が押し寄せてきたのは、きっと愛華も同じだった。


「俺さ、バスケで結果出したら、ちゃんと愛華に言おうって思ってた」

「……なにを?」


蒼馬は少し照れたように笑った。

そしてもう一度、彼女の目を見て、まっすぐに言った。


「大好きだ。これから先も、隣にいてほしい。……俺の彼女として」


愛華は目を潤ませながらも、笑った。

それは泣き笑いに近い、幸せな笑顔だった。


「うん。もちろんだよ、蒼馬先輩」


ふたりの手が、自然と重なった。

指を絡めるその感覚が、これまでのすべての時間を確かにしてくれるようだった。


体育館の歓声も、夏の暑さも、もうどうでもよかった。

この瞬間、ふたりだけの世界がそこにあった。


最後の夏。

その終わりに、ふたりはようやく、心から繋がった。

誰に隠す必要もない、まっすぐな恋として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る