第4話 巨大熊をテイムしました ~3日目の奇跡~
人類が築いてきた文明はすべて、寝床から始まった。
なんてことを考えながら、俺様は草原のど真ん中に寝転がっていた。
昨夜はその辺に生えていた雑草を刈り集めて、簡易ベッドのようなものを作ったつもりだったが。
「いってててかゆ」
背中にチクチクとしたかゆみが走る。
どうやらこの世界の草は見た目より遥かにタフらしい。制服越しにも容赦なく肌に刺激を与えてくる。
寝具としての快適性はゼロ。文明の最初の課題は、やっぱりベッドらしい。
だが、空は美しかった。
雲ひとつない晴天。
その青はどこまでも広がっていて、思わず目を奪われてしまう。
きっと、あの果てには何かがあるのかもしれない。あるいは、何もないのかもしれない。
そんなことを、ぼんやりと考えていたその時だった。
ズシン……ズシン……と、大地が小さく震える音がした。
振り返った俺様の視界に、黒い巨体が映る。
目測で5メートル超えの巨大熊が、こちらをじぃ……と、観察するように見つめていた。
(あ、これ俺様、たぶん死ぬやつ)
理性がストップモーションで叫ぶ。だが体は動かない。
必死にポケットをまさぐると、なぜか砕けたチョコレートの破片が見つかった。
異世界で日本のお菓子とか、どんな奇跡だ。
「とりあえず、ダメ元で投げてみよう」
チョコレートのかけらを5分の1ほどちぎり、そっと熊に向かって投げる。
巨大熊はそれを、信じられない器用さで手に取り。
ぱくっと食べた。
そして、次の瞬間。
【テイム成功】
【新たな仲間:熊(♀)が加わりました】
「……はい??」
「おめでとうにゃ」
いつの間にか、肩の上には例の魔法猫ティータがちょこんと乗っていた。
「テイム成功だにゃ。テイムの仕方には色々あるが、チョコレートの破壊力はすさまじかったようだにゃ」
「いや、そんなバカな」
「いや、ありえるにゃ。異世界では“甘味”が珍しいのだにゃ。たぶん、あの子にとっては未知の美味だったにゃ」
「なるほど。じゃあ名前、つけてやるか」
グリドリーの名前の横には、しっかりとメスのマークが表示されていたが、
俺様はあえて「強そうな名前」を選んだ。
「グリドリー、ってどうかな?」
「がうがう!」
どうやら気に入ってくれたようだ。
なにこの人懐っこさ。お前、最初めちゃくちゃ殺る気満々だったじゃん。
というわけで、俺様とグリドリーは朝から森の伐採作業に勤しむことになった。
理由は単純。
「城(ビル)と壁(刑務所)を建てるためには素材がいる」
俺様は両腕に【伐採スキル】を発動させる。
右手、左手が鎌のような形に変化し、森の木々を鋭く薙ぎ払う。
それはまるで巨大カミソリの乱舞。
音もなく、木々がバッサバッサと倒れていく様子は、ちょっとしたホラーだったかもしれない。
一方のグリドリーは、抜群の筋力でバッタバッタと倒れた大木を運び続けてくれる。
俺様が指さした方向へ、忠実に、黙々と
「……働き者すぎんか、お前」
そして、ふと気づく。
グリドリーの働いた分の経験値が、こっちに入ってきている。
「こ、これは……!?」
思わず拳を握りしめる。
(仲間を増やせば増やすほど、俺様が強くなっていくってことじゃないか!?)
(……俺様最強伝説、来たかもしれん)
【レベル5にアップ】
【新スキル取得:使役の目/使役移動】
ティータがすかさず解説を始める。
「使役の目は、使役中のモンスターの視界をそのまま見ることができる能力にゃ。遠く離れていても、グリドリーが見ているものを見られるにゃ」
「でも眠ってたら使えないんだろ?」
「にゃ、その通りにゃ。“見る”しかできないにゃ」
「使役移動は?」
「使役モンスターのいる場所へ瞬間移動する、あるいは、そいつをこっちに転送する能力にゃ。超便利スキルにゃ!」
まじでやばい。
これ、国造りの基礎どころか、戦略の根幹に関わるチートスキルじゃないか?
その日の夕食は、島に生えていた果物を採取してみることにした。
「これ、赤いバナナみたいだな。いや、リンゴっぽさもある。なにこれ?」
「バリンにゃ。この島特有の果実で、栄養価が高く、主食代わりにされてるにゃ」
ティータの説明によれば、バリンは木になるまで数年かかるが、繁殖力が高く、野生にも大量に存在しているとのこと。
「じゃあ、これを栽培できるようになれば、食料問題は解決だな」
「その通りにゃ。成長促進のスキルを使えば、早く実をつけさせることも可能にゃ」
「未来が明るいなって、グリドリー! 全部食うな!」
「がうがうがう!!」
グリドリーは口いっぱいにバリンを頬張りながら、尻尾をブンブン振っていた。
どうやら今日の彼女は、運搬から収穫、そして“食いまくり”まで、フル稼働だったらしい。
結局俺様の夕飯は、バリン1個ぽっちだった。
それでも、俺様は笑っていた。
だって――
国造りって、こんなにも楽しいものなのかと、心から思えていたから。
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