第3話 草刈りマスター 2日目

「これだけあれば、木製の城壁くらいなら作れるにゃ。ほんとは石や鉄が欲しかったけど、アギトのレベルじゃまだ無理にゃ。あとから取り替えればいいのにゃ。まずは経験を積むのが先だにゃ。それより、最初にやるべきこと、わかってるにゃ?」

「えーっと家来を探しに行く?」

「違うにゃ! この草原にゃ、まずは草刈り。そして畑作りも必要にゃ!」

「畑かあ。作ったことないなあ」

「殺されたいにゃ? 何のためにあたしがそばにいると思ってるにゃ?」

「ごめんなさい猫先生、全面的に私が悪かったです」

「よろしいにゃ。では草刈りを頑張るにゃ。そのあとにいろいろやるにゃ!」

「先生、ひとつだけお願いがあります」

「なんにゃ?」

「その語尾の『にゃ』だけでも何とかなりませんか……」

「無理にゃ」

「ですよねー」


空は雲ひとつない晴天。

昨日の皆既日食が嘘のように、太陽はギラついていた。

風は少し冷たいが、草原には雨も降らず、空気は澄んでいる。自然そのものが、生まれ変わったような清浄さを放っていた。

ぼうぼうに伸びた草の海。見たことのない虫たちが這いまわり、森の手前では昨日よりも多くの動物たちがこちらを凝視している。

この島には、やはり人間という種族がいないのだろうか?

もしかすると、俺様は世界の“異物”なのかもしれない。

それでも、俺様は人間に会いたい。会って話をして、分かり合いたい――心の底からそう願っていた。


草刈りモード、起動!

両手をカギヅメのように構え、俺様は草原にダイブする。

右手でシャッ、左手でシャキン――まるで戦場の二刀流剣士のように、雑草たちをバッサバッサとなぎ払っていく。

牧草として使える部分は残し、城壁予定地には容赦なく刈り取りを敢行。

そして、俺様は確信する。

レベルが上がった。


【レベル4】に到達!

【建設】スキルを習得しました。


「よし来たか!」


日向ぼっこ中の猫師匠の腹をこちょこちょして起こす。


「んあぁ変な夢を見たにゃって、何するにゃ!」

「建設スキルを覚えました、先生」

「タイミングがいいにゃ。それは建国者としての第一歩にゃ。頭の中で作りたい城を想像してみるにゃ!」


俺様は目を閉じ、集中する。

城って、どんなのだったっけ?

時代劇も戦国漫画も見たことがない俺様の脳内には、ビルしか浮かばなかった。

そうして頭の中で出来上がったのは、無機質な高層ビルのような建築と、周囲を取り囲む分厚い“壁”。

城壁というより、セキュリティ最優先の要塞。いや、これは巨大刑務所じゃないか?


「まあ、初めてにしては悪くないにゃ。材料は木材はあるけど、石や鉄はこれから探す必要があるにゃ」


俺様は目を輝かせた。

探す。採掘する。運ぶ。仲間を集める。手配する――


「やること、いっぱいあるなあ、なんか泣きそうだ」

けどそれが、なぜか嬉しい。


草刈り再開。

札幌ドームくらいある広さの雑草をすべて刈り終えたとき、日が沈みはじめていた。

レベルアップはしなかったけど、気分は爽快だった。

草を刈るという行為は、人類が受け継いできた大事な文化の一つ。

ごく普通の高校生がそう思ったのは、きっと亡き祖父の影響だろう。

祖父は自然に愛されていた。

そして、

俺様も、自然に愛された存在になりたいと、心から願っていた。

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