3章 魔女の水たまり
第10話 魔女の水たまりのウワサ
「こらー! こわいだろ!」
あたしたちに浴びせられるおばあちゃんの怒号。
それにビックリして子供たちはわっと逃げ出す。
あたしはみんなと反対方向に行きたかったんだけど、なぜか体が重くて上手く足が前に進まない。
頭がクラクラして意識も朦朧としてきた。
魔女に呪いをかけられるってウワサは本当だったのかもしれない……。
憎らしいくらい晴れているくせになぜか目の前に存在している水たまりが、ゆらゆら、あたしを嘲笑っているようだった……。
☆ ☆ ☆
七月に入ってすぐの、めちゃくちゃ暑い日だった。
プールが終わって眠気もピークな昼休みに、誰かが「涼むために怪談話でもしよう」なんて言い出して、あたしたちは輪になった。
「魔女の水たまりって知ってるか?」
身を乗り出してそう言い出したのは、伊東ノノカちゃん。
白いTシャツがまぶしいくらいで元気そう。
「ここから近くの
「雨も降ってないのに?」
そんなことあるのかなあ?
不思議だけど、まあ、それだけならそんなに怖くはないような……。
「誰かが水を撒いたんじゃないの?」
疑問をそのまま口にすると、ノノカちゃんは「ちっちっち」と人差し指を横に振ってみせた。
「ちがうんだよ。ただの水たまりじゃない、そいつは決して触れないんだ。なぜならそれは近所に住む魔女……老婆が作り出した罠だからだ。その老婆は子供を実験に使うってウワサで、水たまりを気にしている子供を見かけると『こわいだろ!』と声を掛けてくる。そうやって声を掛けられた子は呪われ、具合が悪くなり、そのまま……」
ノノカちゃんは器用に少しずつおどろおどろしい声を出していく。
モモカちゃんがぎゅっと自分の手を握りこんでおびえたように表情をくもらせた。
モモカちゃんは日焼け対策の黒い服に三つ編みで、相変わらずこの双子は正反対だ。
「ノノカちゃん、その道って本当にあるの?」
「近所って言ったろ。あるんだよ。だからさぁ、今日の放課後、そこに行ってみないか? 肝試しってことで」
「ええ⁉」
「――その話、乗ったぁ!」
バン、と突然教室のドアを開けて入ってきたのは、六年生三人組。大里くん、中村くん、小森くんだった。
彼らは中に入ってくると――まず、金魚のワカコさんとトワコさんにそれぞれ頭を下げて「ハハ~ッ」と手を合わせた。
実はこの三人、呪いの金魚事件以降、こうやってうちのクラスに来るたびに金魚を拝んでる。
呪われないために……ってことらしいけど、けっこー律儀で、ちょっと面白い。
その儀式を済ませた三人は、大股であたしたちの輪に近づいてきた。
「おれもそのウワサ聞いたことあって気になってたんだよ。行こうぜ」
「本当かどうか確かめてやりたいじゃん。まあどうせウソなんだろうけど、一応ね、一応」
「複数人で行った方が怖くな……んんっ、ほら、証明できるっていうか……」
おのおのが好き勝手言っているけど、うーん、懲りないなぁ、この人たち……。
金魚の件でも呪いだ何だってめちゃくちゃビビってたくせに。
ノノカちゃんとモモカちゃんも苦笑してる。
「まあ、オレはいいけど。二人は?」
「えっと、うん。モモカもいいよ。たしかに人数多い方が安心だし……」
「ていうか、あたしも入ってるの?」
あたし、行くなんて一言も言ってないんですけど……!
「え? 行かないのか? ジャーナリストとしては真相、気になるだろ?」
「うぐっ……!」
それを言われると……!
きょとんと首をかしげたノノカちゃんに悪意はなさそうで、あたしはますます言い返せない。
まあたしかに、気にならないといえばウソになる……かな。
あんまり気乗りはしないけど……。
いや、怖いとかじゃなくてね!
ただどうせウワサだろうし、今日ほんとあっついし、それなのに外で不毛なことするのもなーっていう、それだけなんだけどね!
怖いワケじゃなくってね!
「舞ちゃん、ムリしなくても……」
「……行きます……だってあたし、ジャーナリストのたまごだから……!」
気遣ってくれたモモカちゃんに、あたしは泣く泣く首を振って答えた。
くうっ……魂に刻まれたこのモットーが憎い……!
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