第7話 調査開始!→即解決⁉
明くんは「まずは現場検証だよ」と美術クラブの教室にやって来た。
もうイーゼルも片付けられていて、普段のふつう教室と変わらない。
明くんはぐるりと教室を見回して、注意深く歩き回り始めた。
「絵はどこにあったのかな」
「後ろの……そう、今、明くんが立っている辺りに置いてあったの」
「舞さんはそのとき、絵を見ていて、たしかにここにあったんだよね」
「うん。はじめはイーゼルに布がかぶせられていてね。ここでモモカちゃんが布を外したんだけど、そのときはちゃんとあったよ。かなり暗かったけど、あたしや教頭先生も見てたしまちがいないよ」
モモカちゃんの絵は生徒玄関でも見てる。
女の子がピアノを弾いている、キレイな水彩画。
「ふぅん……この位置なら廊下までは距離があるし、モモカさんや教頭先生、もちろん舞さんにも見つからずに絵を盗んで去ることは難しそうだ」
「うん……あたしたち三人以外に出入りはなかったと思う」
だからこそあたしが疑われちゃったんだけど、ね。
そもそも犯人は、どうしてモモカちゃんの絵を盗んだんだろう。
たしかにステキな絵だったけど、盗みをするなんて相当なことだよね。
「なるほどね……わかったかもしれない」
「えっ」
「一応確認はとりたいから、そうだな……普段のモモカさんやノノカさんの様子も聞いてこよう」
さらっと言った明くんは、スタスタとどこかへ向かう。
あたしはあわててその後を追った。
普段のモモカちゃんやノノカちゃんの様子?
モモカちゃんは当事者だからまだわかるとして、ノノカちゃんまで?
こんな短時間で、どんな心当たりができたっていうの?
明くんがいろんな人に質問したことを、あたしはメモに取っていく。
いつもおっとりしてる、美術クラブの担当の先生いわく。
「伊東モモカさん? いつも熱心ですよ。美術クラブでは黙々と絵を描いてますから。元々大人しい子ですけど、クラブ中は特に集中していて、ほとんどしゃべりませんねぇ」
「あの絵は本当にすばらしかったです。いえ、何か見ながら描いていた様子はなかったような……きっと描きたいものが映像として頭にしっかり残っているのでしょうね。ピアノの練習も熱心らしいですから」
「教頭先生からあの絵が消えたと聞いて、わたしも今、探しているんですよ。教頭先生は誰かが盗んだのではないかと言ってましたが、そんなひどいことをする人がいるとは思いたくないですねぇ……。けど消えたのは本当みたいですし、とにかくモモカさんがひどく落ち込んでいなければいいんですけど……」
モモカちゃんと仲のいい女子いわく。
「モモカのピアノ? 上手だよ! 練習も休まないでがんばってるし! それなのに絵も描けるなんて、うらやましすぎ!」
「すごいんだから、もっと自慢してもいいと思うんだけどねー。謙虚なんだよなー、モモカってば」
「ノノカちゃんとの仲? うーん、いいんじゃないかな。まあ、モモカが誰かのこと悪く言ってるのなんて聞いたことないけどさ。『モモカよりノノカちゃんの方がすごいよ』ってよく笑って言ってるし」
ノノカちゃんと仲のいい男子いわく。
「あいつ運動神経やばすぎ。こないだサッカーで負けたしさぁ。口も悪いし、女子なの信じらんないぜ。ま、一緒に遊ぶ相手としては楽しいけどな!」
「あー、でも放課後はあんま遊ばないな。ほら、モモカちゃんがピアノやってるじゃん。その付き添いみたいな……『モモカはフワフワしすぎだからオレがボディーガードしてるんだよ』とか言ってたことあったなぁ。男前すぎだろあいつ」
「モモカちゃんの絵? 玄関に飾ってたやつか。見た見た。繊細でキレイで、さすがモモカちゃんって感じの絵だよな」
教頭先生いわく。
「なんだ、また君か。……おっと、そっちの君は丹野くんだったかな」
「記者には説明して、今日のところは断ったよ。記者にも伊東さんにも悪いことをしたな……」
「絵は伊東さんが運んできてくれたんだ。私が持とうと言ったが、彼女の方が絵の扱いにも慣れているだろうということでね。そこまで重いものでもないし、それもそうだなということで任せたんだよ。うん? 彼女と合流したときには、もうイーゼルに布をかぶせた状態だったが……それがどうしたんだ」
「なるほどね」
いろんな人に話を聞き終えた明くんは、そう言った。
あたしには何が「なるほど」なのかさっぱりわからない。
だけど明くんの表情には深い納得の色が見えて、あたしにはそれがもどかしい。
自分たちの教室まで戻ってきた明くんは、ふとあたしを見た。
「舞さんはよくメモを取ってくれているね」
「え? ああ、うん。何がヒントになるかわからないしね!」
「ジャーナリストを目指してるんだっけ」
うわっ……ストレートに聞かれてちょっと顔が熱くなる。
誰から聞いたんだろう。まあ、公言してるから周りの人はだいたい知ってるんだけど。
真顔で確認されるとどこか気恥ずかしいけど……でも、悪いことや恥ずかしいことじゃないから、あたしはできるだけ胸を張った。
「うん。将来の夢なんだ」
「今から目指してるってちょっと珍しいね。何かキッカケがあったのかな」
「パパがそう、っていうのもあるんだけど……」
さらに深く聞かれて、あたしは少しまごついた。
もう。あたしの方が明くんにいろいろ聞いてみたいのに。
でもこれは聞かれてイヤなことじゃない……むしろ、あたしがあたしであるための、大事な核みたいなものだ。
だからあたしはカラリと笑って――それからわざと大げさにため息をついてみせた。
「あたしね、なんていうか不運なんだぁ」
「不運?」
「トラブルに巻き込まれやすいっていうのかな。だから今回みたいに犯人にまちがわれそうになったりするのもはじめてじゃなくてね。まあ、今のところそこまでオオゴトにはなってないんだけど……。最初はそれでへこんでたことも多かったの」
あたしが悪いのかなぁって心がぺしょぺしょになったときもあった。
でも、どんなに気をつけても、向こうからトラブルが体当たりしてきて巻き込まれるし。
あたしが一人じゃないときもそうだったから、両親や友だちも「舞はたしかにドジだけど、五割くらいのことは舞のせいじゃないよ」って太鼓判を押してくれたし……あれ、半分くらいはあたしのせいってことか?
まあ、でも、言いたいことはそこじゃなくて!
「でもトラブルに巻き込まれやすいっていうことは、それだけ事件のネタに事欠かないってことだよってママとパパに言われて。それもそうだなって。じゃあ全部ネタにしてやって、『パパを超えるジャーナリストになってやるぞー!』っていうのが今の目標なの!」
我ながら、あたしも両親もポジティブすぎか! なんて思ったりするけど。
もうあたしの不運は体質みたいなものだろうし、気をつけても変わらないときはどうしたってあるから……それならその体質を自分のために利用してやった方がぜったいお得だもんね。
デメリットなんてひっくり返して、あたしなりのメリットにしてやるんだ。
カラカラ笑うあたしを、明くんはしばらく見つめていたけど……(イケメンに見つめられるの、慣れなさすぎて困る!)、やがて小さくほほえんだ。
「そうか」
「そうだよ」
それじゃあ、と明くんは涼やかに、歌うように、言葉をつむいだ。
「ジャーナリストの舞さんに真実がわかるように……」
「え?」
「明かすよ。この謎を」
――だけど犯人はもう帰ってるだろうし、明日ね。
そう続けられて、期待に胸をパンパンにふくらませてしまったあたしはスッ転びそうになった。
明くんメモ:
明くんはもったいぶる。
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