第2話:ようこそ、《シェルター》へ──選ばれし存在たちの檻(おり)

目を開けた瞬間、世界は灰色に染まっていた。


空は鉛のように重く、空気には光がなかった。

視界の端にノイズのような影が揺れ、人間の形をしたモノたちが、黙々と歩いている。


「ここは……どこだ?」


辺りを見回すと、見慣れたはずの自室は消えていた。

代わりにそこにあったのは、巨大な監獄のような街。

無機質なビル、音のないネオン、そして天井のない空間。


「ここは《シェルター》。この世界の“裏側”だよ」


そう言ったのは、真っ黒なコートを羽織った少年だった。

年齢は俺と同じくらい。だけど、目の奥が全然違う。まるで、人間をやめたみたいな目だった。


「お前は選ばれた。“存在の喪失者(ロスト)”としてね」


「……は?」


「この世界は、現実から“排除された人間”だけが辿り着く場所。家族、学校、社会。どこからも拒絶されたやつらが集まってる」


俺の胸がドクンと鳴った。

まるで、俺自身のことを言われているようだった──いや、実際にそうなんだろう。


「じゃあ、俺はここで何をすれば……」


「闘うんだよ」


少年は片手を上げた。

すると、彼の背後に“炎の剣”が浮かび上がる。

──空間から、剣が生まれた。


「ここでは、自分の“存在価値”が能力になる。

 お前がこの世界に何を望むのか。それが“力”になるんだ」


その瞬間、俺の足元が光に包まれた。


脳の奥に、なにかが直接流れ込んでくる。

怒り、悲しみ、後悔、恐怖。

あの日、あの教室で俺が飲み込んだ感情たちが、暴力のように押し寄せた。


──そして、告げられる。


《記憶喰い(メモリア・イーター)》

対象の記憶を“奪い”、自身の力に変換する。


「……奪う? 記憶を……?」


「へぇ、お前。結構やべー能力を引いたな」


少年が、ニヤリと笑った。


「ようこそ、神城レイ。

 ここからは、“お前がこの世界を壊す番”だ」



次回:

第3話「最初の狩り──“笑っていたやつ”から消してやる」

復讐の火が再び灯る。

記憶を喰う力を持ったレイが、最初に狙うのは──あの笑顔で嘘をついた男。

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