『僕を追放したこの世界で、君だけが泣いてくれた。』

稲佐オサム

第1話その日、世界が音を立てて崩れた

昼休みのチャイムが鳴り終わったとき、俺の教室はまるで戦場だった。


机が倒れ、黒板には「裏切り者」「最低」といった落書きが躍り、俺のロッカーには牛乳とカレーがぶちまけられていた。


「おい、神城。なんか弁明とかあんの?」


にやけ顔で近づいてくるのは、クラスの中心・狭間リョウ。

彼は何の根拠もなく、「神城レイが盗撮してた」という噂を流した張本人だった。


「……俺じゃない。やってない」


かろうじて声にしたが、誰も耳を貸さなかった。

教師すら、「事実確認は後にする」と言って、俺を職員室に閉じ込めた。


数日後、俺は自主退学を勧められた。

クラスメイトの証言、監視カメラの死角、なぜか用意された“証拠画像”。

全てが、俺を犯人に仕立てあげるようにできていた。


親は泣きながらもこう言った。

「レイ、あんた、何を考えてたの……? もう無理よ、転校しましょう」


──俺は、誰からも信じてもらえなかった。


唯一、あの時だけ。


白波ユナだけが、教室の隅で震えながら小さく言った。


「私、レイくんがそんなことするわけないって思ってる……でも、怖くて……」


その言葉は、小さすぎて誰にも届かず──俺の心だけに、焼き付いた。



学校を辞めた俺は、部屋に引きこもった。


カーテンを閉め、SNSを遮断し、光をすべて拒絶した。


でも、ある晩。

ディスプレイの向こうに、妙な文字列が浮かんだ。


《あなたの“存在価値”を証明しますか? Y/N》


気がつけば、俺の指は「Y」を押していた。


──世界が、音を立てて、裏返った。



次回:

第2話「《シェルター》へようこそ──選ばれし存在たちの檻」

神城レイが踏み入れる、異能力者だけの世界。

そこで彼が得た力は、“記憶を喰らう”という、あまりにも冷酷な能力だった──。

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