サン・エッグ崩壊計画
ちびまるフォイ
太陽は人類の手に余る
人類が太陽をすっぽり覆う"サン・エッグ"を開発するや、
太陽の膨大なエネルギーを得て人類は革新した。
ただし太陽光を利用できるのは「光の民」と呼ばれる納税者のみ。
それ以外の人間なぞ知ったことではなかった。
「ん? なにかポストに届いている……」
しばらく見ていなかったポスト。
そこにはおどろおどろしい赤紙が届けられていた。
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【最後通告】
あなたは太陽光消費量1.21ジゴワットを超過しました。
納税されている光料金以上の消費量です。
なお、1ヶ月以内に出頭しなければ
光の民の権利を剥奪します。
7月3日通知
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すでに1ヶ月を過ぎていた。
出張続きで家に戻っていなかった。
「ひ、光の民を剥奪!? 太陽光に浴びれないってのか!?」
まだ間に合うかもしれない。光納税局に行ったが遅かった。
「あなたの光戸籍登録は解除されています。
あなたはすでに"光の民"ではありません」
「なにかの間違いなんです! 1.21ジゴワットなんて知らない!
きっと誰かが光を泥棒したんです!!」
「で、その犯人は? それを証明するのは?」
「それは警察の仕事でしょう!? こっちは被害者なんです!」
「さっき、あなたの同じ理由で光の未納税者が来てましたよ」
「信じてください! 俺はリアルガチで本当なんです!」
「いいからさっさと太陽光区画から出てください。
あなたはもう光の民ではないんですから」
「そんな……! 警察が今調査中なんです!
犯人が捕まるまで待ってもらえませんか!?」
「待っている間、あなたはいったいどれだけの光を使うつもりです?」
荷物をまとめて太陽光エリアから蹴り出された。
エリアを出ると外は真っ暗で、わずかな街灯があるだけ。
そんな乏しい街灯へ身を寄せ合うように人間が集まっていた。
「あの、なにしてるんですか?」
「ここで光を得ているんだよ……。
このエリアじゃ太陽光を浴びれないから
こうして人工光を浴びるしか……おい押すな!」
「まるで……光に集まる虫じゃないか……」
光を浴びないと人間はビタミンDが欠乏するのは知っていた。
人工光を発する街灯に集まる姿はまさに虫だった。
光の民の権利を失い、今や"日陰者"として過ごす日々。
人工光エリアはいつも真っ暗で、陰鬱とした雰囲気。
暗さを利用して盗みや犯罪が横行するスラム街になっていた。
「俺は一生この日陰者として生きるのかな……」
絶望しているときだった。
わずかな人工電力で動いているモニターから地球ニュースが流れる。
『地球の皆さんに朗報です。
光の民が"テラフォーミング計画"を発表しました。
この計画が実現すれば、失われた地球の自然が回復。
あらゆる資源がまた戻ります!』
モニターを見ていた日陰者たちは歓喜した。
「地球の資源が元通りになるだって!?」
「ってことは、化石燃料もまた使えるのか!」
「太陽光なくても快適な生活ができるぞ!!」
希望が見えてきた。
光の民でなくとも豊かな人生を送れる未来が。
さらに自分へいいニュースの2つ目が訪れる。
『もしもし。〇〇さんのお電話ですか?』
「え? あ、はい。そうですが」
『光警察です。調査の結果、光泥棒を発見しました』
「なんですって! そのふてぇ野郎はどこにいるんです!?」
『人工光エリアの1番地です』
「ここじゃないか!! ようし私人逮捕してやる!!」
電話を切って指定された住所にダッシュ。
そこはプレハブ小屋のような場所で青白い光が漏れている。
「おい光泥棒!! よくも俺を日陰者にしてくれたな!」
「ワシになにか用か?」
「ああ用があるとも! お前を逮捕しにきた!
俺の家から勝手に太陽光を使いまくっただろう!」
「……ああ、あれか。すまんな。色々盗んでいたからどれがどれやら」
「なんてツラの皮の厚いやつ! ぶっころしてやる!」
「ふん。殺したければ殺せばいい、どうせお前も死ぬ」
「なんだと?」
「テラフォーミング計画の真意を知らんのだろう、青二才」
「地球の資源を復活させるやつだろ。それくらい知ってらぁ!」
「だから青二才なんじゃよ」
「なんだとジジイ!」
白衣のジジイはよっこいしょと椅子に座った。
「テラフォーミング計画は地球の円周上に衛星を打ち上げ、
そこから資源を復活させる計画じゃ」
「そ、そうなのか……?」
「表向きはな。だがもう一つの計画もある。
それは日陰者の一掃じゃ」
「は?」
「衛星からの資源復活レーザーと合わせて、
光の民以外の人類をすべて木に変えるんじゃ。
テラフォーミングで地球に緑が戻ると同時に、
光の民だけ残して他の人間は消える」
「なんてことを……」
「じゃからワシを殺そうが殺すまいが、どうせ未来は同じじゃ」
「あんたはなんでそんなこと知ってるんだ!」
「ワシがそのテラフォーミング計画の立案者じゃ。
だが、計画に人類抹消が組み込まれることに反発し
ここに堕とされたというわけじゃ」
「……あんたの事情はわかったよ。
だけど、あんたのせいで俺は光の民じゃなくなったんだ。
そこは許せない!」
「安心せい。もうそんな差別階級などぶっ壊してやる」
「そんなことできるわけないだろう」
「これ、見えるか?」
ジジイは指先を見せた。
極小のなにか点のようなものが見える。
「なにこれ?」
「分解ナノマシンじゃ。太陽光プレートを蝕む性質がある。
これを開発するために膨大なエネルギーを盗む必要があった」
「話が見えないけど?」
「これを太陽を覆っている"サン・エッグ"に打ち込む。
ナノマシンがエッグを侵食してプレートを破壊。
ひいては、太陽光が昔のように平等にいきわたるようになる」
「おい、まさかあんた……」
「そうとも。太陽光を独占する時代を終わらせる。
そのためにワシはずっとコレを作ってきた」
自分がまだ生まれてもいない昔。
太陽光は地球へ平等に降り注ぎ、誰もが太陽光を浴びていたらしい。
そんな時代に戻れたならーー。
そのとき、プレハブ小屋の外で車が停まる音が聞こえた。
「光警察だ! 光窃盗の容疑で逮捕する!」
「なんじゃ!?」
「やば! 俺が通報したんだった!」
慌てて入口を閉める。
でもこんなボロ小屋破られるのも時間の問題だろう。
「お前どっちの味方なんじゃ!?」
「知らねぇよ! でもジジイ。あんたは太陽光を解放させるんだろ!?」
「ああ、そうだ」
「だったら協力する! はやくナノマシンをサン・エッグに飛ばしてくれ!」
「だったらお前もこい!!」
「ええ!?」
裏口から出て、別室の作業部屋へと向かった。
そこには空に向けて銃口をもたげた巨大なレールガンがあった。
「なんだこれ……」
「ナノマシンをサン・エッグに向けて届けるレールガンじゃ。
これを打てばナノマシンがエッグの表面に付着する」
「なるほど、さっそく撃ってくれ!」
「……できん」
「なんでだよ!」
「エネルギーが足りないんじゃ」
「ここに来てそれかよ!? 警察もきてるんだぞ!?」
光警察に捕まってしまえばナノマシンも終わりだ。
今から太陽光エリアからエネルギーを盗むのもムリだろう。
「お前さん、このエリア。人工光がどうやって発電されているか知っとるか」
「え? 昔の発電所を使ってるとか?
原子力とかそんなんじゃないの?」
「それを動かす電力は? このエリアにそんなものが?」
「わかるか! もったいつけんじゃねぇ!」
「人命じゃよ。このエリアの人工光は"人命発電"でまかなわれている」
「え……」
「そして、レールガン1発打つのに、
人命エネルギーは1人ぶんでいける」
「俺に死ねっていうのか!?」
「引き金を引く人間が必要だ。お前さんに死んでもらっては困る。
それにワシは泥棒なんじゃろう?」
「ジジイ……」
「さあ、時間はない。早く引き金を!」
すでに扉は破られ、光警察が向かってくる足音が近い。
ジジイはレールガンのエネルギーケーブルを体に接続。
自分はレールガンの引き金に腕をかける。
「いくぞ!! ジジイ!」
「さよならじゃ」
レールガンのスイッチを入れる。
ジジイの人命を吸い出しレールガンの発射エネルギーに変換。
「いっけぇぇ!」
引き金を引くとレールガンからナノマシンが光速で発射された。
ナノマシンは太陽を閉じ込めるサン・エッグの表面に到着。
自律制御で表面のプレートを侵食しはじめた。
「光警察だ! 観念しろ!!」
光警察が到着したころにはジジイの亡骸と、
煙をあげているレールガンに横たわる自分だけだった。
「お、お前らいったいここでなにをやったんだ……?」
「ちょっとばかし、人類へ平等に光を届ける救世主を」
「おい見ろ。た、太陽が……!」
光警察は外を指さした。
サン・エッグにより黒い点でしかなかった太陽が、
表面プレートの崩壊により少しずつその光が溢れてきた。
昔のように太陽のシルエットがみるみる浮かび上がってくる。
「もう太陽の光を独占する時代は終わったんだ……」
プレートがナノマシンにより自壊させられる。
まばゆい太陽光が地球にふりそそいだ。
ただひとつだけ誤算があった。
そのときまで人類は誰ひとり気づいていなかった。
サン・エッグで密閉されていた太陽が膨張していたことを。
解き放たれた太陽がなにをもたらすかを。
「人類はみな平等だーー!」
100倍になった太陽光が地球に降り注ぐ。
光の民も日陰者も。
すべての人類は平等に蒸発して影すら残さなかった。
サン・エッグ崩壊計画 ちびまるフォイ @firestorage
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