塔
松葉あずれん
石の土台
文芸部のドアを開ける。案の定、彼はまだ書いていた。
「周、もう劇は明日だぞ?今更変更は無理だって。」
彼は未だに、自分が書いた脚本に満足していないようだった。舞台は中世のヨーロッパで、騎士役を自分が、姫役を梓がする事になっていた。劇の筋は国の争いによって塔に幽閉されてしまった姫を、敵国の騎士が助けに行くという話である。ありきたりな設定だが、ラストで騎士と姫が塔の頂上で直接会うシーンで、姫が足を滑らせて塔の上から転落してしまうのだ。こんな終わり方よりも、ハッピーエンドの方が客受けも良いと周に力説したが、無駄だった。今年こそは、最優秀演劇賞をとりたいのに。
「聞いてるか?」
周の顔と原稿用紙を覗き込むと、一つのセリフが目に入った。
『あなたの事を、深く愛せるかしら。』
ラストで永遠の愛を誓う騎士に向けて姫が言うセリフだった。付き合った初日、澪にもこんな事を言われた。
「もうセリフの変更は受け付けないからな。」
部室を出て教室に戻ると、梓が一人で台本を読み込んでいた。俺に気が付くと
「周まだ書いてた?」
「うん。どうしてお前の彼氏はあんなにこだわるんだ?俺には理解出来ない。」
頷きながらこう答えると、彼女は苦笑いをした。
「本当にね。」
「…もう明日か。」
「大丈夫。きっと上手くいくよ。目一杯楽しもう!」
彼女は笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます