10 わたしが真犯人になってるかもです
訳を間違えたのだろうか。きっとそうだ。わたしは英文和訳が得意なわけじゃないし。
だけど、もしこの訳が合っているとすれば、今の相手がこの入れ替わり騒動の犯人ということになる。そして、その彼に犯行を指示したのは、わたしと入れ替わっているシンディさんということになってしまう。だとしたら一大事だ。グッジョブなどと言っている場合ではない。
彼に尋ねるべきだろうか。あなたはこの騒動の犯人ですか、と。いや、それは良くない。彼がもし本当に犯人で、こちらが入れ替わっていることに気づいていないのだとしたら、色んなことを聞き出すチャンスだ。例えば、電話番号を元に戻す方法とか。
だけど、わたしの英語力では普通の会話もままならない。誰か頼れる人がいないだろうか。英語が堪能で、かつ今連絡を取れる人が……。あ。
ミコトは急いでスマホを起動してLINEを開く。サッカーチームのロゴのアイコンに素早く触れる。そしてミコトは菱原さんに助けを求めた。
『大変です!!!! 今電話がかかってきたんですが、その人がこの電話番号入れ替わり騒動の犯人で、わたしが真犯人になってるかもです! どうすればいいですか!』
かなり焦って打ったため、少し要領を得ない文章になっていたが、それでも意味を汲み取ってくれるのは、流石菱原さんである。速やかに返ってきたメッセージには、的確な指示が書いてあった。
『今からLINEでミコトさんに電話を掛けます。スマホをできるだけ受話器に近づけてください。ミコトさんが発言すべき文言をこちらで送信するので、それを発言してください』
ミコトの不安はほとんど吹き飛んだ。何しろバックに最強通訳官の菱原さんが付いたのだ。
ミコトは菱原さんと電話を繋げて、顔の前でスマホと受話器をぎりぎり触れないところまで近づけて、まるでシンバルを叩く寸前のような態勢を取った。
少し経つと、受話器から物音がして、程なくして彼の英語が聞こえてきた。
「すまん、待たせたな。で、話の続きだが、計画通り事が運んでいる。他のメンバーにも確認したところ、準備は完了したそうだ」
先ほどと同じようにゆったりとした英語だった。きっとシンディさんという人に合わせてこの速度で喋っているのだろう。英語塾で受けるリスニングテストの話し手よりも少し早いという程度で、ミコトにも聞き取れる。しかしミコトは訳すのに時間がかかってしまうので、大人しく菱原さんからのメッセージを待った。
メッセージが届いたのは、彼が話し終えてから五秒ほど経った頃である。
その速さに驚きながらも、ミコトは届いた英文を音読した。
「了解、ありがとう。その計画について、相互の認識が合っているか確かめたい。計画の全容を端的に説明してみてくれないか?」
途中分からない単語が出てきて、ミコトはかなり焦ったが、菱原さんが即座に読み方を教えてくれたため事なきを得た。今自分が喋った文がどういう意味なのか理解できないまま、相手の返事が返ってきた。
「分かった。順を追って説明するぜ。まず、あんたの言った方法で世界中の電話番号を入れ替える。メールアドレスも同様にな。もちろん、俺らの組織のメンバーの電話番号は入れ替わらないように細工する。そして、世界中が混乱に陥っている隙に、メンバーそれぞれが各地でテロの準備を完了させる。後はあんたの合図が出れば、それを俺がほかのメンバーに伝えて、ドカンだ。どうだ? 何か不備があったら教えてほしい」
ミコトは相手の言葉を聞きながら、やはりどうにか訳せないか奮闘していたが、途中で菱原さんからあるメッセージが届き、その思考は吹き飛んだ。
『彼は本当にこの騒動の犯人です。更にミコトさんが入れ替わっている人物が主謀者で、彼らはこの騒動を利用して世界各地でテロを起こそうとしています』
なんてことだ。さっきの訳は間違いじゃなく、本当にこの人たちが犯人だったのか。よりにもよって自分の家の電話番号がこの騒動の主謀者のものと入れ替わるとは。さっき、大野くんは首相官邸と入れ替わるなんて、どんな星の下に生まれてきたのだろうと思ったが、わたしも中々凄いホシの下に生まれてきたようだ。
犯人だけにね。言ってる場合か。
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