科学暴走対策研究所 KBT

とおあさ

第1話 【機密指定資料 No.20】

「特異元素“レアリウム”に関する初期経緯と国家研究機関設立の経緯」

提出元:日本国中央科学防衛研究庁(JSDA) 第三特異物質管理局

提出日:西暦22XX年4月3日

機密区分:特機第七以上



どこから話せばいいだろうか。

いや、今この時代に生きる人間なら、誰もが知っているあの出来事から話すべきなのだろう。

──空から降った流星群。二千年中頃、地球は初めて“それ”と接触した。


予想以上に軌道を外れなかった流星群は、そのまま大気圏を突破し、地表へと降り注いだ。

それはもはや、ただの隕石ではなかった。いくつかの地域では台風や地震に匹敵するほどの被害を受け、

その落下物の一部に、極めて異質な物質が混じっていた。


後に《レアリウム》と命名される、それは──人類が初めて発見した、

“意識に反応する物質”だった。


最初は、ただの厄介な未知鉱物として扱われていた。

密度が異常に高く、融点はあらゆる金属を超え、どんな薬品にも熱にも反応を示さなかった。

研究者たちは頭を抱えた。削れない、溶けない、分解できない。

つまりは「何もできない」。その“完全な沈黙”こそが、最初の異常だった。


転機は、偶然だった。


日本国内の地方大学にて。

短気な若手研究員が、実験中にレアリウムに向けて怒りを爆発させた。

塩水中に浸していたその物質は、彼の怒りに呼応するかのように──突然、すさまじい光とともに激しい熱を発し、融解したのだ。


どろどろと溶けたその様子は、誰の目にも尋常ではなかった。

再現実験は繰り返された。そして確認された。

怒り、悲しみ、恐怖、愛情──感情の種類を問わず、

“人間の意識”が明確にレアリウムへと作用していた。


結論は、誰もが飲み込みたくなかったものだった。

感情、つまり意識は、莫大なエネルギーを内包している。

そしてレアリウムは、それを引き出す“媒体”だった。


この発見は、全研究者の背筋を凍らせた。

なぜなら、怒りひとつで世界が燃える可能性が生まれたからだ。


すぐに日本政府は動いた。

研究成果は国家機密に指定され、関係者は再配置・監視対象となった。

同時に、 “レアリウムの扱いを専門とする研究機関”として、ある施設が設立された。


その名は、日本国中央科学防衛庁。通称「JSDA」。

そして、我々が属するのはその中のひとつ──特異元素研究局・第零課だ。


気候変動の進行とともに、世界の居住可能域は著しく狭まり、

旧寒帯と旧熱帯を同時に持つ日本は、唯一といっていい実験適地となった。

それに伴い、レアリウム研究も加速度的に進行し、

感情熱のエネルギー化・気候制御・次世代動力源としての応用に成功。

およそ一千年ぶりに、日本は再び世界の頂点に立つ国家となった。


──だが、そこで終わりではない。


レアリウムは、民間で流通が容易だった。。

不正に売買され、闇ルートで武器化され、個人の情動による“暴発”が後を絶たない、そんな危険性を持っている。

レアリウムは万能ではなかった。

むしろそれは、人間の未熟さをそのまま増幅させる危険な触媒だった。


ここから

我々「JSDA」は研究のみならず、

その監視・抑制・排除の役割も担うようになった。

暴走した意識、破壊された都市、違法研究を行う者たち──

もはやこれは科学だけで語れるものではなくなっている。


私はこの国家の統制体制を肯定する。

知識だけを持った人間が、感情という神の力に触れてしまう可能性があるのだから。

必要なのは、力ではない。理性だ。

そして理性とは、最も貴重で、最も簡単に壊れるものでもある。




R

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