夏の共犯者

海揺霧惟

プロローグ

この夏は、どこまでもどこまでも暑かった。


暴力的なまでに降りそそぐ日射しに、庭のマリーゴールドが枯れた。道沿いに植えられた日向葵も耐えかねるというように太陽から顔を背けていた。


それでもこの街はまだ涼しかった方だろう。海辺にあって、寒流由来の海風が吹き込んでくる。陸上の熱を撫でて攫ってゆく。


大好きだった。私はこの街の海も、海から来る風も。


思い出を語るとき、それはいつだってこの夏の涼風だ。茹だる暑さの中で、火照った体を撫でて生ぬるく濁していく。風の中にゆっくりと輪郭がほどけて、透けていく。限りなく透明になった体に、記憶の中の夏色だけが満たされる。


彼女と過ごしたこの夏だけが、私の人生だ。

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