最終章 事件キャンセルで都合のいいエピローグに向かうチート
あれから5億年ほどの時間がたった。流石にただ瞑想しているシーンを、ずっと描写するのは無意味だろう。
少々だが悟りを開くことができた私を、十一面観音様が迎えに来てくれた。
「「「 さて、この場所で一人でできる修業はこのくらいだろう。 君さえ望めば阿弥陀如来の導きにより、極楽に転生することも可能だが・・・どうしたい? 」」」
一つの世界に目をやって意味深に問いかける観音様。 そう、あの日まで私がいた修羅道の世界の一つだ。
本来なら全てをあるがままに受け入れ、余計な手出しをしないのが是かも知れません。・・・しかし私には、一度でも友人と思った人たちを放置して、自分だけ救われようとは思えません。
「「「 うん。それでいい。 今の君なら、自力で彼らを救うことができるはずだ 」」」
背中に観音様の声援を受け、私は修羅道の世界に意識を向ける。確かに私があの場所にいたのは、今から5億年前のことだ。だが宇宙の外から世界を見ている私には、10次元的な時間の軸が見えている。その5億年分前の箇所に、行けばいいだけのことだ。
「「「 しかし、ぽっと出の私が、重要人物みたいな顔をしてずっと解説してるって、物語としてはどうなんだろうな 」」」
観音様、そういうのは10次元を外から見ているのではなく、メタネタというのではないでしょうか?
時間を遡り、私が腹を刺されたシーンに向かう。主観的に見れば流れていて逆流も停止もしない時間だが、世界の外から見れば任意の止まった時刻で行動することが可能だ。もっと前から事件解決をしてもいいのだが、それは経験を積む途中で、物事が『無かったこと』になってしまうという危険がある。つまり私が刺されるまでは、そのまま手出しをしない方がいいと結論したのだ。
引っ込みがつかなくなって私を刺したクラウンを捕まえ、あの瞑想した小世界に連れて行く。 大魔王即大如来という言葉もある。悲しみ妬み嫉みなどマイナスの感情をよく知っているクラウンは、きっかけさえあれば悟りを得ることも遅くはないだろう。
世界に残っている他の皆には、私の記憶喪失の顛末と今回の事件を解決するために手出しをした説明、そしてこれから負の感情で生まれるモンスターを倒して世界の負担を減らすことについての解説を紙に書きだし冊子にまとめ、表紙に私のサインを入れて目印にし、スローライフ村の会議所に置いておく。
そこまでしてこの世界での後始末を終えたと思った私は、如来の導きで輪廻転生の円環から外れ、極楽の末席に転生することができた。
「これが、殺された転生勇者が、5億年後の未来から送ってきた手記です」
「話を聞くだけで、自分の正気度に自信が無くなっていくな」
スローライフ村の長と首都から来た勇者たちは、まるで旧支配者に遭遇した者の日記を読んだ時のように、顔色をなくして頭を抱えていたのだった。
完
転生した勇者らしいが記憶がない ヤメタランス @nonbirisaurus
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