第9話:遠隔連携、最終決戦の幕開け

【ロザリンド視点】


「来たわね、聖王国の大軍!」

 私の叫びが、村の防壁にこだました。遠方の地平線から、地鳴りのような響きと共に、聖王国の巨大な軍勢が迫るのが見えた。聖なる力を誇示するかのように、きらめく旗が風になびき、重厚な鎧を纏った兵士たちが一糸乱れぬ行進を見せる。彼らの進軍速度は、まるで巨岩が転がり落ちてくるかのようで、大地を揺るがす振動が、私の足元まで伝わってくる。その数、ゆうに一万を超えるだろう。

 私の【内政チート】で築き上げた防衛網は、すでに万全の状態だ。村の周囲には改良された防壁が巡らされ、クロウの技術で強化された自動迎撃装置が死角なく配備されている。その光学センサーが、敵軍の隊列を正確に捉えていた。そして、旧王国から引き抜いた経験豊富な兵士たちと、この村で育った若者たちが、固い結束で臨戦態勢に入っていた。彼らの顔には、恐怖よりも、自分たちの村を守るという強い決意が宿っている。


 私の手には、クロウから送られてきた『通信魔道具』が握られている。まるで前世の無線機のような形をしたそれは、彼と私をリアルタイムで繋ぐ唯一の手段だ。彼の設計した通信網は、どんな魔力の干渉も受け付けず、クリアな音声を届けてくれる。

「クロウ!聞こえる!?聖王国の先鋒が視認できたわ!目標、敵本隊中央、距離3000!」

 通信魔道具から、わずかにノイズが混じった彼の声が聞こえてくる。その声は、いつもと変わらぬ冷静さだったが、その奥に微かな高揚感が感じられた。彼は、聖女リアナの魔力反応も同時に確認しているはずだ。

『ああ、把握している。聖女リアナの魔力反応も確認した。……ロザリンド、君の判断に全てを委ねる。私が送る情報に合わせ、部隊を動かせ』

 彼の言葉は、私への絶対的な信頼を示していた。その落ち着きが、私の胸中に渦巻く焦りを少しだけ鎮めてくれる。「彼を信じる」という、揺るぎない「価値観の発動」が、私の全身を貫いた。私は、彼の送ってくる複雑な戦術情報や、聖王国の弱点に関するデータを瞬時に理解し、脳内で最適解を導き出す。


 ゲームでは、主人公が先陣を切って戦場を駆け抜け、英雄として輝く。しかし、私の役割は違う。私はこの村の女王として、指揮官として、この村を守り、彼の指示を完璧に遂行することだ。

 「了解!私の指揮で、この戦、必ず勝つわ!全軍、第一防衛線、攻撃開始!」

 私は通信魔道具を握りしめ、村の防衛隊に指示を飛ばした。その声は、戦場の喧騒にも負けないほど力強かった。私の視線は、戦場全体を俯瞰し、指揮棒を振るうように指示を重ねる。

 いよいよ、最終決戦の火蓋が切って落とされた。これは、単なる争いではない。科学と信仰、自由と支配の、未来をかけた戦いなのだ。


【クロウ視点】


 工房のモニターに映し出されるのは、聖王国の巨大な軍勢と、ロザリンドの村の防衛隊の配置データだ。聖女リアナに持たせた探査装置と、村の周囲に設置した遠隔観測装置が、リアルタイムで正確な情報を送信してくる。まるで僕の目の前で戦場が展開されているかのようだ。

 聖王国の兵団は、確かに強大だ。聖なる力によって強化された兵士たち、そして、巨大な魔物型の兵器が、大地を震わせて迫る。彼らの戦術は、力押し。だが、それは予測可能だ。僕の『フィルタリング型』思考は、彼らの動きを瞬時に分析し、パターンを割り出す。

 僕は、ロザリンドの作戦情報に基づき、開発した最終兵器の最終調整を行った。それは、聖なる力の特定の波長を乱し、無効化するシステム。聖王国の兵器や、聖女リアナが悪用されているシステムの核を直接破壊することができる。起動すれば、一瞬で戦局を覆せるだろう。

 通信魔道具から、ロザリンドの声が聞こえる。彼女は冷静に、しかし、その奥に強い意志を秘めている。

 『クロウ!聞こえる!?聖王国の先鋒が視認できたわ!目標、敵本隊中央、距離3000!』

 彼女の指揮能力は、僕の予想を遥かに超えていた。僕の技術を理解し、それを最大限に引き出すための最適解を導き出せる人間。まるで、僕の頭脳を共有しているかのような感覚だ。彼女は、僕が作り出した「点」としての技術を、見事に「線」としての戦略へと昇華させている。

 聖女リアナを救うこと。そして、この世界に真の『科学』と『希望』をもたらすこと。それが、僕の目的だ。

 ロザリンドの言葉と、聖女リアナの存在が、僕を社会に繋ぎ止めている。僕は一人で研究を続けてきたが、彼女たちの存在が、僕に新たな世界を見せてくれた。「彼女たちが、僕を社会に繋ぎ止めている」という「気づき」が、僕の「人間性」という「感情の膨張」を加速させた。僕の指先が、キーボードを叩くのではなく、通信魔道具に触れる。その指先には、微かな熱が宿っていた。

 「ああ、把握している。聖女リアナの魔力反応も確認した。……ロザリンド、君の判断に全てを委ねる。私が送る情報に合わせ、部隊を動かせ」

 僕は通信魔道具に向かって話した。いよいよ、最終段階だ。僕の思考は、勝利への最終シミュレーションを開始する。


【聖王国情勢】


 聖王国の兵団が、『錆びた開拓村』への総攻撃を開始した。最高司祭の号令のもと、聖なる力を纏った兵士たちが、村の防衛線を突破しようと猛攻を仕掛ける。巨大な聖なる兵器が火を噴き、魔物を召喚する。

 しかし、聖王国の司令官たちは、想定外の事態に直面していた。

 「な、何だ!?魔物が、突然動きを鈍らせたぞ!」

 「防壁が、聖なる攻撃を弾き返しただと!?馬鹿な……!」

 ロザリンドの巧妙な戦術と、未知の技術(クロウの兵器)によって、自軍が想定外の苦戦を強いられていることに、彼らは焦り始めた。彼らが絶対と信じていた『聖なる力』が、なぜか効果を発揮しない。村の防衛網は、まるで彼らの攻撃を予測しているかのように、完璧に対応してくる。

 「あの村に、何がある……!?これは、聖女リアナの力だけではないぞ!」

 最高司祭は、遠くから村の戦況を眺めながら、顔色を変えた。彼の額には、冷や汗が滲んでいる。彼らの信仰は揺らぎ始めていた。「奇跡では片付けられない」という「違和感」が、彼の思考に混乱をもたらす「助走」となっていた。

 「これは……不浄か、それとも……」

 最高司祭の呟きは、虚しく戦場の喧騒に消えていく。彼らの瞳には、もはや勝利への確信ではなく、困惑と恐怖の色が宿っていた。聖なる力の優位性が、目の前で打ち破られようとしているのだ。


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第9話:遠隔連携、最終決戦の幕開け


「ついに来たわね、聖王国の大軍!圧倒的な兵力だったけど、私の【内政チート】で築き上げた防衛網と、クロウの未知の技術があれば、互角に戦える!通信魔道具で彼の指示を受けながら戦うのは、まるで巨大なゲームのラスボスを攻略しているみたいね!彼の声は冷静で、そのおかげで私も落ち着いて指揮できたわ。いよいよ、ゲームの枠を超えた最終決戦の火蓋が切られた!私の裏ルート、最後までやり遂げてやるんだから!」


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次回予告


(激戦の最中、ロザリンドがクロウの指示に従い、聖王国の主要な魔力供給源を破壊する)

ロザリンド: 「あと少し……!あの鍛冶師の指示通りにすれば、勝てる!」


(聖女リアナが悪の聖王国に操られ、村を壊滅させるほどの聖なる力を放とうとする)

聖女リアナ: 「不浄の地よ、滅びなさい……!」


(聖王国の最高司祭が勝利を確信するが、聖女リアナの内部では葛藤が続く)

最高司祭: 「聖女リアナ様!この一撃で全てが終わる!」


偽りの奇跡が、村を飲み込もうとする!聖女リアナの悲しき一撃は、ロザリンドとクロウに届くのか!?奇跡の破壊と、裏切りの聖女リアナの運命が交錯する!次回、『奇跡の破壊と、裏切りの聖女』。

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