第8話:科学の覚醒と、信仰の歪み
【ロザリンド視点】
聖王国からの宣戦布告。その書状は、聖女リアナの直筆の署名と、聖王国の絶対的な紋章で彩られていた。リアナが悪の旗頭として利用されている……その事実は、私の胸を締め付け、呼吸を乱した。ゲーム知識では、こんな展開、ありえない。聖女は常に光の存在で、穢れを知らないはずなのに。だけど、現実がゲームのシナリオを凌駕していることは、すでに幾度となく経験してきた。村の防壁が、心臓のようにドクン、ドクンと鳴るのが聞こえる。
この世界は、もうゲームじゃない。これは、私の現実だ。
そう強く意識した時、私の「ゲームの枠に囚われる」という「違和感」は消え去り、「自力で切り開く」という「価値観の発動」が、私の全身を熱くした。背筋が伸び、血潮が熱くなる。
「全兵、緊急召集!迎撃準備を急いで!」
私は指示を飛ばした。その声には、一切の迷いがなかった。私の【内政チート】をフル活用し、村の防衛体制をさらに強固にする。クロウの技術で強化された自動迎撃装置は、村の周囲に死角なく配備され、その光学センサーが敵の動きを正確に捉えている。村人たちの士気も高まっている。彼らの目には、私への絶対的な信頼が宿っていた。それが、私を突き動かす力になる。
私は通信魔道具を握りしめ、彼の声を待った。その冷たい金属の感触が、私の手のひらに汗を滲ませる。
こんな絶望的な状況を覆せるのは、彼しかいない。あの、全てを解き明かす天才鍛冶師。
『ロザリンド、聖女リアナの魔力反応は依然として不安定だが、聖王国の技術構造の解析は完了した。彼らの「聖なる力」は、僕が知る現代科学で説明可能だ』
通信魔道具から聞こえてきたクロウの声は、いつもと変わらぬ冷静さだったが、その奥に微かな高揚感が感じられた。彼は、聖なる力の原理を突き止めたのだ。
「そう……!」
私の心に、一筋の光が差し込んだ。彼の言葉は、常に現実を覆す。私の胸を焦がすような不安は、一瞬にして期待へと変わった。
彼の言葉を信じる。それが、今の私にとって唯一の道であり、絶対的な確信だった。
私の【内政チート】と、彼の【知力チート】。この二つが合わされば、どんな強大な敵にも立ち向かえる。ゲームにはなかった巨大な敵だけど、ここまで来たんだもの。私の裏ルートを邪魔するものは、徹底的に排除してやるんだから!
私は地図を広げ、来るべき総力戦の最終シミュレーションを行った。防衛ラインの再構築、部隊の配置、物資の供給ルート……全ての計画が、彼の新たな情報によって最適化されていく。私の思考は、これまで以上に研ぎ澄まされていた。
いよいよ、本当の最終決戦が始まる。私の胸の奥で、静かな闘志が燃え上がっていた。その炎は、私の瞳の奥で、鋭い光を放つ。
【クロウ視点】
聖王国の宣戦布告。
モニターに映る聖女リアナの魔力反応は、以前よりも強力に、そして歪に変質していた。やはり、洗脳されているのか。彼女の心が、激しく引き裂かれているのがデータから読み取れた。そのデータは、僕の冷静な思考回路に、微かな、しかし無視できない痛みを突きつける。
僕は、聖王国の技術と聖女リアナの力を解析する中で、ついに『聖なる力の根本原理』を突き止めた。
僕の指先が、キーボードの上で微かに震えた。脳裏に、これまで点と点でしかなかった膨大なデータが、一瞬で繋がり、鮮明な回路図として浮かび上がる。その「発見の興奮」が、僕の心の「点」を最大に「膨張」させていた。それは、知的好奇心の最高潮であり、同時に、リアナを救う道が見えたことへの、静かな高揚感だった。
それは、僕が知る現代知識チート、すなわち物理学やエネルギー学で説明可能な、ある種のエネルギー現象だった。高密度な魔力粒子が、特定の波長で振動することで、生命活動を活性化させたり、物質構造に作用したりする。聖王国は、それを『奇跡』と呼び、神の力と信じ込んでいたに過ぎない。彼らはその真理を理解せず、ただ儀式と信仰によって、そのエネルギーを無理やり引き出し、制御していただけなのだ。その制御は不安定で、時に暴走を引き起こし、その現象を『不浄』と呼んで誤魔化していた。
「奇跡、か。馬鹿げた話だ」
僕は淡々とつぶやいた。その声には、僅かな嘲りの色が含まれていたかもしれない。
僕が求めていた真理は、ここにあった。聖なる力は、神の力ではない。ただの物理現象だ。そして、この原理を応用すれば、聖王国の力を無効化し、聖女リアナを解放することも可能だ。彼の脳裏には、歪んだ光に代わり、純粋なエネルギーの輝きが描かれていた。それは「真の知による光」の夜明けを象徴する。
僕は、聖なる力を打ち破るための最終兵器、いや、最終システム開発に着手した。それは、聖なる力を増幅するのではなく、その波長を乱し、無効化する装置だ。
研究は、僕の純粋な知的好奇心を刺激する。だが、それだけではなかった。聖女リアナを救うという感情。そして、ロザリンドという女性が、僕の技術を信じ、それを完璧に使いこなして戦っている。その「信頼」と「期待」が、僕の「知の探求」に「人を救う」という「意味」を付与した。
二つの衝動が、僕を突き動かしていた。僕の頭の中では、膨大なデータが猛烈な勢いで処理され、新たな回路が構築されていく。僕の指は、まるで楽器を奏でるように、複雑なキーボードの上を滑らかに動き続けた。
【聖王国情勢】
聖王国内では、聖女リアナが聖なる力を再び発揮し始めたことで、民衆の信仰心は最高潮に達していた。神殿には連日、リアナの力を拝もうとする人々が押し寄せ、その熱狂はまるで嵐のようだった。広場では、聖歌隊の歌声が響き渡り、人々の顔には希望と安堵の表情が浮かんでいた。
「聖女様が戻られた!これで不浄の地は浄化される!」
しかし、その裏では、最高司祭たちが聖女リアナの力を完全に制御しきれていないことに気づき始めていた。リアナの精神は疲弊し、時折、洗脳を跳ね返すかのように不安定な魔力反応を見せていたのだ。彼女の顔色は土気色に近く、その瞳の奥には深い疲労が刻まれている。
最高司祭は、額に冷や汗を滲ませ、その目が泳いでいた。彼の内なる「納得できない沈黙」が、今や「恐怖」へと「感情の膨張」を起こしている。口元が微かに震える。
「聖女リアナの力を、もっと完全に制御せねば……!」
聖なる資源の価格は下落を続け、経済的劣勢は明らかだった。彼らは、自らの技術的劣勢を隠蔽するため、さらに強硬な手段に出ることを決断する。
「錆びた開拓村は、不浄の巣窟!聖女リアナの力で、全てを焼き尽くせ!」
最高司祭は、テーブルに置かれた報告書を激しく叩き、その声を荒げた。彼の言葉は、もはや信仰というより、焦りや恐怖からくるものだった。彼の信念は、もはや絶対的なものではなく、現実の脅威によって揺らぎ始めていたのだ。
彼らは、もはや失われた『古代の技術』の存在を恐れていた。あの村の奇妙な発展が、彼らの信仰の根幹を揺るがしかねないことを、本能的に察知していたのだ。その恐怖が、彼らを盲目的な行動へと駆り立てる。
総攻撃の号令が下された。神殿の巨大な鐘が、不吉な音を立てて鳴り響いた。
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第8話:科学の覚醒と、信仰の歪み
「聖王国からの宣戦布告……しかも聖女リアナが悪の旗頭に立つなんて、本当にゲームじゃありえない展開だわ!私の知ってる乙女ゲームは、もっと平和だったのに!でも、ここで立ち止まるわけにはいかないわね。あの鍛冶師が、聖王国の聖なる力の原理を解明してくれたみたいだし、きっと何か対策を練ってくれてるはずよ。私の【内政チート】と彼の技術で、この絶望的な状況をひっくり返してやるんだから!いよいよ、本当の最終決戦が始まるわ……!」
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次回予告
(聖王国の大軍が村に迫り、ロザリンドが通信魔道具に最後の指示を叫ぶ)
ロザリンド: 「全軍、指示通りに動け!クロウ、聞こえる!?」
(自身の工房で、最終兵器の最終調整を行うクロウ)
クロウ: 「聖女リアナを救い、この世界に科学と希望をもたらす……!」
(聖王国の司令官たちが、村の防衛戦術と未知の技術に苦戦する)
聖王国司令官: 「何だ!?聖なる力が、なぜ効かぬのだ……!」
遠隔連携で挑む最終決戦!二人の知恵が、強大な聖王国に挑む!勝利の女神は、どちらに微笑むのか?次回、『遠隔連携、最終決戦の幕開け』。
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