第6話:旧王国の終焉、そして聖女リアナの心の揺らぎ
【ロザリンド視点】
「よくやったわ、みんな!これで旧王国の経済は完全に破綻よ!」
私の号令に、村中に歓声が響き渡った。その声は、かつて絶望に沈んでいた村の、確かな復活の証だった。
私は、村人たちが生産した高品質な農作物や、クロウの技術で改良された工業製品を、旧王国の市場に大量に流し込み、価格破壊を引き起こした。王都の店先には、私たちの村から運ばれた安価で高品質な品々が溢れかえり、旧王国製の品物は誰にも見向きもされない。王都の商人たちが、次々と倒産していく様を、情報網からの報告で冷徹に確認した。
さらに、私の【権力チート】で掴んだ王子の不正や貴族たちの腐敗に関する情報を、巧妙に民衆にリークした。密かに王都に送り込んだ情報屋たちは、民衆の不満が爆発する瞬間を丹念に演出し、反乱の火種を大きく育て上げた。広場の演説台には、飢えた民衆が詰めかけ、貴族の悪行を糾弾する声が渦巻いていた。
結果は明白だった。
王都では民衆の不満が爆発し、貴族たちは互いを牽制し合い、内部分裂。旧王国は、文字通り内側から崩壊していった。腐敗しきった旧体制は、私の仕掛けた小さな火種によって、あっけなく燃え尽きたのだ。
王子は失脚し、主要な貴族たちも地位を追われた。彼らが呆然と引き立てられていく様子を、遠隔で確認した時、私の口元には会心の笑みが浮かんだ。
私の婚約破棄を決定した王子は、まさか辺境に追いやった私が、裏から王国を滅ぼす引き金を引くことになるとは夢にも思わなかっただろう。
「ふふ、ざまぁみろ、王子。ゲームのシナリオ通りじゃ、こうはいかないのよ!」
私は、村長室で広げた旧王国の地図に、大きく赤いバツ印をつけた。ゲームの主人公ですら成し得なかった快挙。そう、私の『裏ルート』は、ゲーム本編の誰よりも強固な道を歩んでいる。「ゲームの枠を超えた勝利」という「価値観の発動」が、私の胸を熱くする。この達成感が、私の全身に満ち渡っていく。それは、何よりも甘美な感覚だった。
これで、一つ大きな障害が取り除かれた。
しかし、同時に、新たな脅威が迫っていることも察知していた。私の情報網は、聖王国の斥候が以前より活発に動き出していることを報告している。村の空気に、微かながらも、嵐の前の静けさのような緊張感が漂い始めていた。遠くから聞こえる鳥のさえずりすら、不吉な予兆のように感じられた。
彼らが真に恐れているのは、私が築き上げた強大な経済力ではない。聖なる力に頼らない、クロウの未知の技術だ。彼らはそれを『不浄』と呼び、排除しようとするだろう。
「聖女リアナが、再び彼らの手に落ちる前に……」
私は、聖女リアナの存在が今後の鍵を握ることを理解していた。彼女の純粋な心が、彼らの邪悪な思惑に利用されることだけは避けなければならない。もし彼女の力が悪用されれば、村にとって最大の脅威となる。彼女の透き通るような瞳が、悲しみに染まる姿を想像するだけで、胸が締め付けられた。
旧王国へのざまぁは終わった。
次なる相手は、この世界の絶対的権力、聖王国。
いよいよ、本当の戦いが始まる。私の胸の奥で、静かな闘志が燃え上がっていた。その炎は、私の瞳の奥で、鋭い光を放つ。
【クロウ視点】
聖女リアナが、旧王国の混乱の報をもたらした。
「ロザリンド様が……旧王国を、内側から崩壊させたんです!すごいでしょう、クロウ様!」
彼女は興奮した様子で、王都での出来事を語った。その瞳はキラキラと輝き、まるで自分自身の勝利であるかのように喜んでいる。僕の無感情な顔を見上げるリアナの表情は、純粋な喜びで満ちていた。
僕は特に感情を抱かない。しかし、あの女性の知性と、その実行力には感嘆した。僕の技術を最大限に活用し、最適解を導き出す。彼女は、僕の発明を道具として完璧に使いこなす。「この女性は、僕の技術の真の理解者だ」という「意味付け」が、僕の中で強固になった。彼女は、僕が作り出した「点」としての技術を、「線」としての戦略へと昇華させる天性の才能を持っている。
「すごいな……あの女性は」
僕が漏らした言葉に、聖女リアナは嬉しそうに頷いた。彼女の喜びのデータが、僕の『フィルタリング型』の思考にも、微かな、しかし心地よい波紋を広げていく。
だが、聖女リアナが持ち帰ったもう一つの情報に、僕は眉をひそめた。
聖王国の真の目的。それは、『錆びた開拓村』に残る古代の力を完全に『浄化』、つまり破壊すること。そして、そのために聖女リアナの力が不可欠だということ。
「私の力は、世界を救うためのものだと教えられてきました。でも……それが、村を、クロウ様の作ったものを壊すために使われるなんて……」
聖女リアナは震える声で、僕に助けを求めた。その瞳には、深い悲しみと、理解できない現実への絶望が滲んでいた。彼女の目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。その涙は、僕の冷徹なデータ分析を阻害するノイズであるはずなのに、なぜか、僕の心臓の奥を締め付けた。彼女の「苦悩」という感情が、僕の心の「点」を大きく「膨張」させた。それは、これまで経験したことのない、強烈なデータだった。
聖なる力。それは、この世界の人々が『奇跡』と呼ぶもの。しかし、僕の現代知識からすれば、それは単なる『エネルギー』の現象に過ぎない。特定の波長を持つ高密度なエネルギーが、特定の条件下で物質や生命に作用する。それだけのことだ。
聖王国は、そのエネルギーを信仰の名の下に独占し、理解しないまま利用しているに過ぎない。彼らの信仰は、真理を覆い隠すための道具と化している。
聖女リアナの力は、そのエネルギーを純粋に引き出す『媒体』だ。だが、聖王国の教義によって、その媒体が『破壊』へと偏向させられている。それは、まるで、純粋な結晶が泥に汚されていくようなものだ。
僕は、聖女リアナの純粋な願いを聞き入れた。彼女の力は、こんな使い方をされるべきではない。
僕の内から、「彼女を救う」という明確な「動機」が「価値観の発動」として芽生えていた。それは、純粋な知的好奇心を超え、僕を社会へと突き動かす、新たな『線』だった。僕は、聖なる力の原理を解明し、それを打ち破る方法を模索し始めた。聖王国の教義が、いかに真理からかけ離れているかを示すために。そして、聖女リアナを救うために。僕の思考は、リアナの悲しみを終わらせるためだけに、高速で回転し始めた。
【聖王国情勢】
聖王国の総本山、最高司祭たちが集まる厳粛な会議室。重厚な石造りの部屋には、香が焚かれ、張り詰めた空気が漂っていた。中央の巨大な祭壇には、聖女リアナが連れ去られた際に残されたという聖なる衣の一部が供えられている。
彼らは『浄化』計画の最終確認を行っていた。
「聖女リアナの確保は間近。不浄の地を、完全に聖なる光で満たすのだ!」
最高司祭は、冷徹な声で命じた。その瞳の奥には、狂信的な光が宿っている。彼の顔に刻まれた深い皺が、その信念の固さを物語っていた。
彼らは、聖女リアナが持つ力が『信仰の結晶』であり、その純粋さこそが世界を救う唯一の道だと固く信じ込んでいる。その裏には、かつて存在した『古代の技術』を隠蔽し、聖なる力こそが至高だと民衆に信じ込ませるための深い闇があった。彼らの権威は、真実の上に築かれたものではなく、欺瞞の上に成り立っていたのだ。
しかし、聖王国経済の疲弊は、もはや聖職者たちの間でも無視できない問題として浮上していた。辺境の『錆びた開拓村』が流す安価で高品質な品々が、聖王国の経済を蝕み始めていたのだ。聖なる資源の輸出量は減り、輸入に頼る品々の価格は高騰していた。
「聖なる資源の価格が下落を続けています!このままでは……!」
報告をする司祭に、最高司祭は目を光らせる。彼の額には、冷や汗が滲んでいた。その握られた手は、微かに震えている。「奇跡がなければ、我々は滅びる」という焦燥感が、彼の心臓を締め付ける。その「焦り」が、彼の冷静さを奪い、「苛立ち」として「感情の膨張」を起こしていた。
「故に、聖女リアナの浄化が必要なのだ!不浄の技術が、聖なる秩序を乱している!我々の信仰こそが、この世界を救う唯一の道なのだ!」
最高司祭は、苛立ちで聖書を叩きつけるように閉じた。その行動は、もはや信仰というより、焦りや恐怖からくるものだった。彼の言葉は、自らに言い聞かせるかのような響きを持っていた。彼の信念は、もはや絶対的なものではなく、現実の脅威によって揺らぎ始めていたのだ。
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第6話:旧王国の終焉、そして聖女リアナの心の揺らぎ
「旧王国へのざまぁ、完璧に決まったわ!王子の呆れた顔が目に浮かぶようだわね。ゲームの主人公でさえ成し得なかった快挙よ!私の【内政チート】と【権力チート】、最高よ!でも、浮かれてる場合じゃないわ。次なる敵は、聖王国。彼らは聖女リアナの力を利用して、この村を『浄化』しようと企んでいる。聖女リアナの心が揺らいでいるのも気になるわね。いよいよ、ゲームの枠を超えた本当の戦いが始まるんだから!」
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次回予告
(聖王国の特殊部隊が村を襲撃し、聖女リアナが連れ去られる)
ロザリンド: 「聖女リアナが、まさか連れ去られるなんて……!こんな展開、ゲームにはなかったのに!」
(聖女リアナの魔力反応を追い、聖王国の技術を解析するクロウ)
クロウ: 「聖女リアナの力が悪用されている……。必ず救い出す!」
(聖王国に連れ戻された聖女リアナが、洗脳に抗おうと苦悩する)
聖女リアナ: 「違う……私の力は、こんなもののために……!」
聖女リアナが囚われの身に!悪の聖王国が動き出し、歪んだ信仰が世界を覆う!ロザリンドとクロウは、遠く離れた場所から、聖女リアナを救い出せるのか?次回、『聖女の連れ去り、そして悪の象徴へ』。
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