恋に落ちない貴女が大嫌い
三郎
第1話:私には分からない
私——
しかし、中学二年になったばかりの頃、望に告白された。うみちゃんのことが好きなのだと。応援すると言うと、彼はお礼を言ったが、複雑そうだった。その理由はすぐにわかった。望の告白から数日して、うみちゃんは私達と望にカミングアウトをした。自分は同性愛者であると。私は全く気付かなかったが、望は薄々気付いていたらしい。だから私が応援すると言った時複雑そうな顔をしていたのかと納得した。うみちゃんは私達に言った。これからもずっと友達で居てほしいと。私は迷わず頷いた。彼女の恋人になりたいと私に語った望も、彼女の言葉に頷いた。当たり前だろうと答えた声は少し震えていて、笑顔も引き攣っていた。うみちゃんはそんな彼に気付かないふりをして、念を押すように言った。「絶対だよ」と。望はそれに対して「大丈夫だよ」と答えた。明らかに大丈夫ではなさそうな顔で。
その日、望と別れた後、うみちゃんは私の方を見ずに言った。「大丈夫だよ。望もそのうち諦めがつくから」と。
それから数ヶ月して、うみちゃんは小学生の頃からずっと伸ばし続けていた髪を急にばっさりと切った。腰まであった長い髪は耳が見えるほど短くなっていた。元々、伸ばしていたのは好きな人への憧れからで、気持ちを切り替えるために切ったらしい。
「でも、そんなにすぐには切り替えられないや」
泣きそうな顔で笑うと、彼女は望に小さく謝った。その謝罪の意味は私にはよくわからなかったが、望には伝わったのか、彼は大丈夫だと首を横に振った。私にはそれは自分に言い聞かせているようにしか聞こえなかった。
それから数日して、望は私を呼び出して言った。「俺が海菜に恋をしていることは知らないことにしておいてほしい」と。
「知らないふりって。うみちゃん本人も気付いてるんじゃない?」
「うん。でも知らないふりしてて。……今の彼女には、俺の気持ちを受け止める心の余裕は無いと思うから」
「……私は恋したことないけどさ……お前が苦しんでるのは見れば分かるよ。気持ち切り替えるためはちゃんと話すべきなんじゃねえの? うみちゃんもそうしたんだし」
「……うん。分かってる。けど……俺は彼女の気持ちが落ち着くまで待ってあげたい。だから……ごめん。知らないふりしてて」
「……はぁ。分かったよ」
「ありがとう。ちる」
その翌日、うみちゃんにも同じことを言われた。私には分からなかった。叶わない恋の苦しみも、うみちゃんが望の恋心を受け入れられない理由も。置いてけぼりにされている気分だった。
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恋に落ちない貴女が大嫌い 三郎 @sabu_saburou
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