『もう一人の影』
【記録:都内某区・高校二年男子/仮名・長瀬】
双子だった記憶はない。親も、保険証も、通知表も、全部「一人分」だった。
ある日、部屋の本棚から“自分の名前がふたつ書かれた卒業アルバム”が出てきた。
表紙は自分が通っていた小学校のもの。確かにその記憶もある。
けれど、集合写真に写っていた。──“もうひとりの自分”が。
立ち位置も表情も少し違う。でも、間違いなく同じ顔だった。
その夜から、部屋のドアの前に誰かが立つようになった。ノックはない。
チャイムも鳴らない。ただ、ドアの下の隙間から、影が差し込む。
最初は猫かと思った。でも違う。
明け方になると、玄関の鍵がかすかに揺れている。
病院にも行った。カウンセリングも受けた。
でも“誰かがいた”という記録だけが、確実に残っていく。
郵便受けには、時々自分あての手紙が二通届く。宛名はまったく同じ。けれど一通は開けられていた。消印の日付が、自分が郵便局に行った日と一致している。
監視カメラを設置した。夜中の三時十六分。
部屋から出ていく“自分”の後ろ姿が映っていた。
僕はその時間、ベッドの中にいた。
でもカメラには、僕が自分で玄関を開けて、外に出ていく映像が残っていた。
学校に行くと、友人が言った。
「昨日、夕方コンビニで会ったよな」
「え?」
「俺、昨日ずっと家にいたよ」
彼は一瞬黙ってから言った。
「そう……か。でも、お前の制服とカバンと、声だったよ」
次の日の夕方、スマホのインカメラが勝手に起動した。
画面に映っていたのは、後ろから自分を見ている“誰かの視点”だった。
その夜、ドアの前の影が二重になっていた。
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