天然さんと天然くん、恋は脇道にそれまくり。

月峰そーた

第1話 席替えって、運命なんでしょうか。

 ガラガラと椅子を引く音が教室中に響いていた。

 長く辛かった1学期の期末テストが終わって、ホッとする間もなく、俺たちはお待ちかねの恒例イベントに挑んでいた。

 ――席替え。 イベントというほどではないだろ、と思われる方もいるかもしれないが、これが結構大事なんだ。特に俺みたいな、人付き合いが苦手なタイプにとっては。

 県内有数の進学校・星城せいじょう高校。1年2組。その教室には静かな緊張感と、謎の期待が渦巻いている。

 いくら進学校であろうと席替えに対する熱量は変わらないのだ。他のところもそうだと思う。……多分。

 できれば窓際がいい。あと……前の席でもいいかも。先生の話、よく聞けるし。

 そんなことを思いながら、クジを引いた俺は、プリントされた番号を見て目を細めた。



 【2列目・左から2番目】



 ……うん。普通だな。普通過ぎてなんの感想も出てこなかった俺は、ぬるりと席を移動する。 移動距離も長くなく、早めに着いた俺はゆっくりと席に座る。


愛翔まなとくん、お隣だね~」


 少しの間、ぼーっとしていると、やわらかく透き通るような声が、すぐ隣から聞こえた。

 お隣を向くと、そこには笑顔満点の少女――辻本つじもと温花のどかさんがいた。


「これからよろしくね!」


 微笑みながら、ぺこりと小さく頭を下げる彼女の動作は、まるで風に揺れる花のようだった。

 ……あ、なんか、春が来た感じ。

 俺はそう思ったが、口には出さなかった。多分出したらいろいろと誤解される。

 ていうか、俺の下の名前覚えてる人いたんだ。意外だな……。


「こちらこそ。……えーっと、席、くじで引きました?」

「はい! さっき、机の下からくじが出てきたので」

「……机の下?」

「はいっ♪ なんか、ヒラッて落ちてきて。あ、これ、きっと運命だな〜って」


 机の下から運命を拾った人、初めて見たかもしれない。


 彼女は天然で有名だ。とても優しくて、よく笑って、誰にでも分け隔てなく接する。だから多分、この発言も、俺に気があるとかではない。多分。

 これはどこかで聞いた話だが、頭ぽんぽんが流行っていた(?)時代に、勘違いした男たちが頭ぽんぽんをしてしまい……。詳しくは言わないが、そういう事案が大量発生していたらしい。

 だからこそ、勘違いなんてしてはいけないのだ。勘違いで、俺も頭ぽんぽんとかしてしまった日には、「うわ、あいつ本気で自分のこと好かれてると思ってるらしいよ」って裏でグルチャが回る未来が見える。いや、マジで怖い。

 そんなことを考えていると、お馴染みのチャイムが鳴った。

 数学の先生が教室に入ってきて、挨拶を授業が始まる。

 この先生は苗字が「関」なので「関数先生」というあだ名がついている。これは俺たちのクラスの特別仕様なわけではなく、全校共通らしい。

 ちなみに、もうひとつあだ名が存在し、「黒板マシーン」という。理由は板書のスピードが尋常じゃなく速いからである。

 このあだ名をつけたやつ、センスいいなぁと知らない誰かに思いを馳せる。

 っと、危ない危ない。関数先生は消すのも早いから、俺も書かなくては。

 机からノートを取り出して、ページを開いた時だった。


「愛翔くん、ノートきれいだね~。芸術って感じがする……!」


 隣に座った温花さんは、俺のノートを覗き込んで言った。


「えっ。いや、ただの……文字だよ?」

「でも、きれいな文字って落ち着かない? あ、ほら、呼吸が深くなる感じ、しない?」


 うん……しない。でも、なんとなくわかる気もする。


「温花さんのほうが、落ち着く雰囲気だよ。なんかこう、森林浴みたいな」

「ほんと? えへへ~……うれしい。……森林って褒め言葉ですよね?」

「多分……褒めてます」


 ほんと、会話のテンポも空気の流れも、ちょっとずれている。でも――不思議と心地いい。

 この席替えの結果は、大当たりか、大はずれか。

 ……それはまだわからない。

 けれどこの時の俺は、少なくとも――「悪くないかも」と、思っていた。







――――――――――――――――――

 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!

 初めて書いたので、文のクセがすごいとか、テンポがよくわからんとかあったかもしれません。

 そんなときは、心の中で「ふふっ」と笑っていただくか、こっそり教えていただけると嬉しいです。できれば優しく教えてください。傷つきやすいので!(でも治りは早いです)

 感想や応援コメントがあると、飛び跳ねて喜びます。

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