半島の動乱から赤作戦まで

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 ──半島の動乱から赤作戦まで



 アルブレヒトにとってもはや一度目の人生の経験は急速に役に立たなくなりつつある。というのも、彼が起こした変化が周囲に強い影響を与え、それによって一度目の人生の流れから大きな違いが生じていたからだ。


 この事件もそんな変化のひとつ。


「ファシスト政府を打倒せよ!」


「人民のための政府を!」


 ロムルス共産党の植民地における武装蜂起だ。


 地中海を挟んでロムルス半島の対岸に位置するトリポリタニアでロムルス共産党が武装蜂起し、トリポリタニアを占領するとかき集めた船舶でシケリア島に上陸。同島に潜伏していた共産党員たちとともにロムルス政府軍と衝突した。


 ロムルス社会主義民主共和国を名乗るこの反政府勢力との戦闘はロムルス王国にとって厄介な問題の始まりとなる。


「アルビオンの内戦は予想できたが、これは想定外だな。俺はロムルスはもっと上手く反政府勢力を押さえているものだとばかり思っていた」


「一度目の人生でもロムルスの反乱はなかったのですか?」


「なかった。そのような動きは全く」


 アルブレヒトはここで旧大陸のパワーバンラスが急速に変化しつつあるのだと悟った。ガリアにしろ、ルーシにしろ、今のところ連中の外交工作は失敗している。


 オストライヒでの内戦を引き起こすことはアルブレヒトがくじいた。ヒスパニア内戦では共産圏が敗れた。そして、バルカン、アルビオンと連続した勃発した内戦でも共産勢力は敗北しつつある。


 焦ったガリアとルーシが他の標的を探し、ロムルスに行きついた可能性はあるのだ。


 共産圏はこれまで表立った戦争ではなく、相手国を混乱させ、自分たちの息のかかった共産党員による『革命』によってその国家を引きずり込んできた。その方法がアルブレヒトによって粉砕されたことが、両国の影響力低下を意味している。


 これ以上の影響力低下を避けるためにガリアかルーシがロムルスに手を出し、そうして内戦が勃発してしまった。そう考えるのはおかしくないだろう。


 ロムルス内戦の勃発からすぐにハルデンベルク宰相は神聖同盟に基づくロムルス王国への軍事支援を行う旨をアルブレヒトに報告。アルブレヒトはそれを承認しながらも、根本的な解決に言及した。


「これはガリアとルーシを倒さなければ終わらない戦争だ。ガリアとルーシが聖域になっている限り、何度でも繰り返されるだろう」


「その通りです、陛下。ロムルスの共産主義者たちもやはりガリアとルーシ製の武器で武装し、両国で訓練を受けていたようですので」


「やはり根本的な解決が必要か」


 ガリア・コミューンとルーシ社会主義連邦を打倒しない限り、この泥沼の内戦はどこの国にも起こり得て、しかも続く可能性があるのだ。


 中国とソ連という聖域があったベトナム戦争のように。


「根本的な解決を急がなくてはな。陸軍の将軍たちを急がせろ」


「はい、陛下」


 アルブレヒトのいう根本的な解決──。


 それは他でもない。ガリアへの侵攻だ。


 先に述べていたようにガリアとルーシは防衛同盟を締結している。よって、この作戦に当たってはガリア側の攻撃が必要とされている。


 これまでオストライヒ帝国はガリアに対する挑発を行い、攻撃を引き出そうとしていた。それさえあればガリアを各個撃破し、西における安全を手に入れられるのだ。


 しかし、それがガリアも理解するところであり、ガリアはなかなか挑発に乗らない。


 で、あるならば多少強引でも『攻撃があった』という事実を作り出すのみ。


 その作戦に従事しているのが、フリーデンタール教導降下猟兵旅団だ。


 ヒッペル少将が指揮する彼らは密かに国境を越えてガリアに侵入した。そこで行うのはガリア人民陸軍の兵士たちの拉致である。兵士たちは拘束され、RH-333汎用ヘリでオストライヒに送られる。


 それから起きたのは国境地帯にあるラジオ局の襲撃事件だ。


 オストライヒ内務省が管轄し、ガリアの民衆に対して宣伝活動を行っていたプロパガンダ放送局が襲撃を受け、職員は皆殺しにされた。この際に犯行声明として『ガリア人民陸軍』を自称する犯人たちがラジオ放送を行った。


 ラジオ局はすぐさま警察軍によって奪還され、立て籠もっていた犯人たちは皆殺しにされた。そして、彼らがガリア人民陸軍の兵士たちだとする認識票を持っているのが確認されたのである。


 これは間違いなくガリアからの攻撃だとそう主張にするに足るものだった。


 オストライヒ外務省は事前にガリアが国境地帯に動員を行っていたことも上げて、これが計画的な犯行であることは明白だとしてガリアを批判。すぐさま責任者としてガリア人民陸軍の司令官ルクレール上級大将の身柄の引き渡しを要求した。


 ガリアはこれを拒否。


「これで戦争ができるぞ。口実はできた。ガリアからの攻撃であるラジオ局の襲撃事件。これがあればルーシを黙らせ、ガリアを叩ける」


 既にオストライヒ外務省はルーシ社会主義連邦に対してガリアからの攻撃は明白であり、防衛同盟が発動する条件を満たしていないと勧告している。


 ルーシがどこまでこれを真剣に受け取るかは不明だが、今のところ動員が行われた形跡はなく、ルーシは沈黙している。


 オストライヒは動員を開始し、カテゴリーBの師団は既に充足を完了して国境地帯に向かっている。カテゴリーCの師団も間もなく充足が完了する予定だ。


 そして、開かれた皇帝大本営にてガリア侵攻作戦が語られる。


「我々オストライヒ地上軍は低地地方からの侵攻を主力とし、ここでの縦深攻撃によって一挙にガリアの主力を殲滅する予定です」


 陸軍参謀総長ファルケンハウゼン元帥がそう語る。


「降下猟兵軍と長距離砲撃による敵予備戦力の拘束。そののちに我が軍主力の装甲部隊による縦深攻撃を実施。ガリア地上軍を蹂躙し、主力を包囲殲滅して粉砕し、一挙に敵首都パリシィを制圧いたします」


 オストライヒ地上軍がドクトリンとしているのは機動戦であり、敵の縦深に深く切り込む縦深攻撃であった。


 これは敵の前線を突破したのちに、さらに敵の後方に回り込むことで前線部隊を孤立させて、殲滅してしまうというもの。


 敵の装甲部隊や機械化部隊に対する機動は後方に降下する降下猟兵や砲兵の砲撃によって阻止し、敵が何も対処できない状態にしてから踏み躙るのだ。


 そのためオストライヒ地上軍は大量の砲兵と装甲戦力を有している。


「よろしい。俺は貴公らを信じる。よって、勝利を期待する」


「はっ!」


 このガリア・コミューン侵攻作戦は赤作戦と名付けられ、国境地帯に戦車や火砲が鉄道輸送で送り込まれて行く。


 そんな中でガリアはルーシに助けを求めていたが、ルーシは今の時点では動けないと返すのみ。そこには共産圏での主導者争いの側面もあり、ルーシはガリアを一度見捨てるつもりのだようだった。


 そんな薄汚い争いが繰り広げ荒れる帝歴1964年の6月。


 オストライヒ=ガリア国境地帯に砲声が響いた。


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