支援に揺れ動く国々

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 ──支援に揺れ動く国々



「国はファシストを支援するのをやめろ!」


「ヒスパニア王国政府は正統な政府ではない!」


 ロムルス王国王都レムス。


 そこでは大規模な反戦集会が開かれていた。


 ロムルス王国はオストライヒ帝国の大規模な義勇軍派遣を受け、自分たちも軍を派遣することを決定したためだ。既に陸海空軍の各部隊からなる遠征軍が、内戦の最中にあるヒスパニアへと派遣された。


 しかし、この派兵に左派政党とその支持者が反発。


 王国政府への支援を直ちに取りやめ、民主主義で選ばれた共和国政府を支援すべきと反戦集会を開いた。集会は既に14日が経過し、この集会による影響で王都の都市機能はマヒしつつある。


「連中は治安を乱す暴徒だ」


 これを受けて開かれた閣議にてルイージ・オルランド王国宰相がそう宣言。


 オルランド宰相は根っからの反共主義者であり、旧大陸が赤化していくことを苦々しく、そして危機的に感じていた。


 ガリア・コミューン、ルーシ社会主義連邦。それらはオストライヒ帝国同様にロムルス王国にとっての仮想敵国であった。特にガリア・コミューンとは地中海を巡って、激しいにらみ合いが続いている。


 なのに、ここに来て歴史ある王室を有し、同時に地中海に面するヒスパニアが赤化するなど、彼には許せるはずもなかった。ヒスパニアが赤化すればドミノのように次は自国が赤化する恐れすらあったのである。


 故に彼はオストライヒ外務省と打ち合わせて、今回の遠征軍派遣を決定していた。少なくとも反共主義ということでイデオロギーが一致しているオストライヒ帝国は、この旧大陸における数少ない同盟国であったが故に。


 そのことに対して忌々しい容共的な左派から反発が生じ、王都レムスが混乱に陥るのに、彼は怒りと苛立ちを隠せていない。


「軍による速やかな鎮圧を指示する」


 14日間耐えた彼はついにそう指示を飛ばした。


「王都が血の海になります、宰相閣下」


「構うものか。徹底して暴徒どもを排除せよ」


 他の閣僚が憂慮するのを無視してオルランド宰相は軍による鎮圧を指示した。


「本当によろしいのですね?」


「ああ。戦車を出せば連中は震えて逃げ散るだろう」


 国防大臣が確認を取るのにオルランド宰相はそう繰り返し命じたのだった。


 これを受けて 王都を守る王国陸軍と国家憲兵隊から部隊が動員され、戦車も伴った彼らが反戦集会が開かれている広場を包囲する。


 戦車と装甲兵員輸送車が反戦集会が開かれている大通りと広場に向けて進み、通りが封鎖されると同時に銃火器で武装した兵士たちが広がった。


「失せろ、ファシスト!」


「共和国の同志たちを支援せよ!」


「インターナショナル万歳!」


 暴徒たちは口々に社会主義を支持する声を上げ、包囲を行う軍の部隊に反抗する。


 自分たちに敵意を見せる暴徒に軍と国家憲兵隊の将兵に緊張感が漂い、彼らは無線で何度も交戦規定ROEを司令部に確認した。


 そして、緊迫した情勢下で司令部から命令が下る。


「構え!」


 一斉に兵士たちが銃を構える。そのように命令が下ったのだ。


「いつでも撃てます」


「分かっている」


 銃を構えたことで暴徒たちが解散することを期待した指揮官だったが、暴徒たちは兵士たちが撃ってこないのをいいことに罵声を上げ、軍の兵士たちを嘲笑う。


 長い忍耐の時間が過ぎていき、司令部には暴徒が解散しないという報告が何度も上げられた。司令部ではオルランド宰相からひっきりなしに何としても暴徒を解散させろと言う命令が下され、ついに────。


「撃て!」


 軍は発砲した。


 銃弾が一斉に放たれ、暴徒たちを薙ぎ払う。自動小銃の射撃が暴徒たちを次々に撃ち抜き、広場が血で染まった。


「畜生! 撃って来やがった!」


「た、助けてくれ!」


「撃ち返せ! ファシストを殺せ!」


 広場が悲鳴に包まれる中で一部の暴徒が銃を取り出し、軍に向けて応射した。さらには投石が軍に向けて行われる。


「撃ってきただと!?」


「撃て、撃て! 反撃を許すな!」


 まさか暴徒からの反撃があるとは思わなかった軍は半ばパニックになって無差別に発砲。さらに戦車が歩兵を守るように前に出ると、暴徒たちがそれに向けて激しい投石を浴びせた。


『中隊長車、中隊長車! 暴徒に攻撃されている! 反撃の許可を!』


『こ、攻撃を許可する! 反撃しろ!』


 僅かな投石でもパニックになるほどに現場は混乱しており、戦車が車載重機関銃による射撃と主砲による砲撃を始め、辺りが血の海になっていく。


 軍と国家憲兵隊の練度や実戦経験が乏しかったことも原因であるが、混乱は混乱を呼び、殺戮は加速していった。


『司令部より全部隊! 攻撃中止、攻撃中止! 繰り返す、攻撃中止だ!』


 慌ただしく司令部から攻撃中止命令が出るが、一度攻撃を始め、始まった混乱はそう簡単には収まらない。砲撃と射撃は血の匂いが兵士たちを冷静にさせるまで続いた。


 かくして、最終的に暴動がされたと軍によって報告されたとき、5000人を超える死者が軍民両方を合計して出ていた。


 この事件は血の日曜日事件と呼ばれ、ロムルス王国における反政府運動とそれに対する政府の暴挙の象徴となる。


 だが、問題が起きていたのはロムルス王国だけではなかった。


 比較的穏便な反共主義を掲げているアルビオン連合王国もまた混乱の最中にあった。


「ヒスパニア内戦は民衆と暴君の戦争ではない。社会主義という疫病と戦う正しいものたちの戦いだ。我々は速やかにヒスパニア王国を支援すべきであり、ガリア、ルーシの両国に無責任な共和国への支援をやめさせるべきである」


 連合王国議会は現在、保守党が与党であり、議席の過半数を占めている。最大野党は自由党だが、彼らは積極的なヒスパニア内戦への介入は嫌いながらも、社会主義が自分たちの国にまで蔓延することは嫌悪していた。


 唯一王国への支援に明確に反対し、社会民主主義を掲げる労働党は少数政党だ。


「しかし、ヒスパニア王国陸軍は民衆に発砲しています。罪のない民衆に向けて機関銃を発砲しているのです。我が国がそれを支援するなどということが、道義的に許されるのでしょうか?」


「罪のない民衆は治安維持を行っている軍人に発砲したり、火炎瓶を投げつけたりしない。これは内戦であり、誰もが戦争の加害者であり、犠牲者なのです」


 それでも連合王国議会は未だにヒスパニア王国支援に踏み切れずにいた。


 ヒスパニア王国情報部はそのような連合王国議会への工作を試み、同時にオストライヒ帝国の情報機関もアルビオンが軍事支援に踏み切るよう世論工作を続けた。アルビオンが動けば、ヒスパニア内戦における王国政府の優位は確たるものになるのだ。


 新聞が買収され、ラジオにデマが流れ、政治家が脅迫される。


 そして、与党保守党もすぐにでもヒスパニア王国を支援したいとヒスパニア内戦介入のt前の予算と法案の通過を試み──。


「……本法案は可決されました」


 ついに議会において与党は反対を数で押し切り、予算と法案が可決され、アルビオン連合王国はヒスパニア王国に向けて支援を開始した。


「戦争に反対しよう!」


「ヒスパニア内戦への介入反対!」


 これに労働党は猛反発。支持者たちに反戦集会を呼び掛けた。集会は王都ロンディニウムの通りに広がり、これによって先にロムルス王国の王とレムスで起きたのと同様に都市機能がマヒを始める。


 さらには非合法政党であるアルビオン共産党も反対の暴動を起こし、何名もの共産党員が当局に拘束された。しかし、彼らはもっと過激な抗議を呼び掛けた。


 それが最悪の形で現れたのがアルビオン王立海軍で起きた事件だ。


「ファシストへの支援をやめろ!」


「民主主義を守れ!」


 フッド事件とのちに言われる水兵の反乱である。


 アルビオン王立海軍の巡洋戦艦フッドの乗員が反乱を起こした。反乱を起こしたのは主に水兵であり、彼らは将校たちから武器を奪い、さらには彼らを人質にフッド内に立て籠もった。


 そもそも最初は社会主義云々や反戦云々ではなく、給与が一方的に減らされたことへの反発だったのだが、内部にいたアルビオン共産党のシンパが暴動を扇動したのだ。


 すぐにフッドは封鎖され、動員された海兵隊が埠頭に展開する中、さらにはフッドが出港することを阻止するために巡洋艦2隻と駆逐艦4隻が港に展開。


 それと並行してアルビオン海軍は水兵たちと交渉する準備を見せていた。


 しかし、実際にアルビオン海軍は交渉で解決するつもりはない。


「鎮圧作戦は進行中です、提督」


「うむ」


 このフッドを巡る暴動の解決を命じられたブレア・マウントバッテン海軍中将は部下からの報告に頷いていた。


「交渉を行うように見せかけて、海兵隊を突入させます。こちらが既に何度か行った偵察によれば今回の暴動は計画的なものではなく、行き当たりばったりで行われているものであり、既に敵は疲弊しています」


「しかし、連中は人質を取っている」


 フッドの艦内には艦長以下、反乱を起こした水兵によって人質にされている将校たちが未だ囚われている。


「多少のリスクは覚悟の上です。幸い、人質に民間人はいません」


「祖国のために犠牲になってもらうというわけか……」


 この後、海兵隊によるフッド奪還作戦が決行された。


「突入開始、突入開始!」


 海兵隊が一斉にフッドの艦内に突入。閃光手榴弾が投じられ、水兵たちの視力を奪うと同時に海兵隊が短機関銃を発砲し反乱水兵を蜂の巣に。


「ゴー、ゴー、ゴー!」


 海兵隊は艦首付近と艦尾付近から突入していき、フッドの内部の制圧を開始。


「ファシストの犬を殺せ!」


 先頭に気づいた水兵たちは艦内にバリケードを作り、抵抗を行う。それを手榴弾まで使って海兵隊は制圧を続けた。だが、海兵隊も無傷とはいかず、死傷者が生じていく。


「投降しろ! もう勝ち目はないぞ!」


 海兵隊は反乱水兵の拘束を命じられていたが、どうせ軍法会議では死刑になると思った反乱水兵たちはなかなか降伏しない。


「誰が降伏などするか!」


「そうだ! 革命万歳!」


 海兵隊は反乱を起こした水兵たちを射殺していき、艦内に囚われていた人質を解放。しかし、人質になっていたフッドの艦長と副長の2名と下級将校4名が死亡。フッド奪還を行った海兵隊6名が犠牲になったのだった。


 国王ジョージ7世はラジオにてこの犠牲になった将兵たちに哀悼の意を示した。


 また拘束された水兵は非公開の軍法会議にて極刑が言い渡され、銃殺となった。


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