内戦
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──内戦
オストライヒ帝国とガリア・コミューン、ルーシ社会主義連邦の摩擦が高まる中、大陸の西端でも争いが起きようとしていた。
ヒスパニア王国で行われた選挙の結果、左派の社会主義政党が勝利。しかし、選挙には不正疑惑もあり、また左派には政府を否定する
『ヒスパニア王国国王、選挙のやり直しを命令。左派は反発か?』
その結果、国王フェルディナント10世自ら選挙のやり直しを命じ、それに激怒した社会主義者たちが王都マジェリードを占領。そのまま王政廃止などを決定し、ヒスパニア共和国を自称する。
これを看過できないフェルディナント10世は軍による速やかな鎮圧を指示し、ここにヒスパニア内戦が幕を開けた。
首都であるマジェリードの他、いくもの地方都市を占領した共和国側は序盤において優勢な状況を築いている。
そんな中でアルブレヒトも情報を集めていた。
「フェルディナント10世が亡命してくるそうだ」
アルブレヒトがユーディトにそう告げる。彼の手にはハルデンベルク大臣から秘密裏に渡されたヒスパニア内戦の資料があった。
「内戦のせいでしょうか?」
「そうだろうな。マジェリードは陥落し、他の主要都市も陥落しつつある。正直、このままヒスパニア王国に残ってもルーシ帝国のロマノフ一家と同じ結末を辿ることになるのは間違いない」
「残念なことです。歴史ある王室はここ最近ではちゃんとした敬意も払われず、失われているように思えます」
「敬意だけで王室も皇室も続かない。我々には確かな権力が必要だ。それも鉄と血を帯びたそれが必要なのだ」
ヒスパニア内戦の激化と敗北の兆しからフェルディナント10世は家族とともに密かにオストライヒ帝国へと渡った。王室が逃げたということを隠すために、専用機は使われず、チャーターした民間機を使いオストライヒ外務省が彼らを出迎えた。
このヒスパニア内戦を巡っては各国で対応が異なっている。
オストライヒ帝国と南部のロムルス王国では王国を支持し、医薬品から軍需物資まで様々な支援を行っている。対するガリア・コミューンとルーシ社会主義連邦は共和国を支持して支援を行っていた。
未だに対応を決められていない旧大陸の国家はアルビオン連合王国だ。彼らは社会主義に反対する立場からは王国の支援を、民主主義を重視する立場からは共和国を支援すべきとの分裂していた。
そのような意見の分裂がある中、ヒスパニア内戦は共和国優勢で推移している。
共和国はマジェリードを中心に首都圏を制圧しているのに加えて、南東部のガリア・コミューンを国境を接する地域を占領している。そこからガリア・コミューンの軍事支援が次々に到着していた。
一方の王国は南部の群島地域から爆撃機を飛ばし、北部でも抵抗を続けているが、数で勝る共和国側に苦戦を強いられている。
しかし、職業軍人というプロが多く所属するのは体制側である王国の方であり、彼らの練度が王国の粘り強い抵抗を支えていた。
そんなヒスパニア内戦が続く中で、フェルディナント10世がアルブレヒトの下を訪れたのは亡命から7日後のことだった。彼は侍従武官だけを引き連れて、行動を明らかにせず、密かにファルケンシュタイン宮殿にいるアルブレヒトの下を訪れた。
「お会いできて光栄です、陛下。このような時分ではありますが」
アルブレヒトはそう言ってフェルディナント10世を出迎えた。
「ああ。いささか友好を育むのには不適切な時期だな」
フェルディナント10世は50代ほどの長身に黒髪の男で、今日は目立たないスーツ姿であった。彼はまだオストライヒに亡命したことを知られるわけにはいかなかったのだ。
「では、どのようなご用件ですかな?」
「率直に言おうもっと大規模な支援が必要だ。そうでなければ旧大陸は歴史ある国家を再び失うことになる」
フェルディナント10世はアルブレヒトにそう訴える。
「ほう。その話を何故私に? 外務大臣や帝国宰相、それに皇帝陛下と私より適任のものは大勢おりますが」
アルブレヒトは理解できないという風に装ってそう返す。
「はぐらかさないでくれ。こちらの情報筋ではカプリヴィ宰相に王国を支援することを働きかけたのは君だとされている。君は社会主義を心の底から嫌悪しているのだと私は考えているが、どうなのだ?」
「確かに私は彼らが好きではありません」
どうやらヒスパニア王国の情報機関は無能ではないようだとアルブレヒトは思った。彼が王国を支援するようにハルデンベルク大臣を経由して、カプリヴィ宰相に働きかけたのは事実だ。
カプリヴィ宰相は当初ガリア・コミューンとルーシ社会主義連邦を刺激することを恐れて、内戦に対して中立の立場を取るつもりだった。
しかし、アルブレヒトはそれよりも旧大陸においてオストライヒ帝国が赤化した国々に囲まれることを恐れた。一度目の人生ではヒスパニア共和国が内戦に勝利し、そしてオストライヒ帝国の反乱に手を貸したことを彼は覚えていたのだ。
「しかし、具体的にどのような支援が必要なのでしょうか? 規模や種類によっては私の力が及ばないこともあります」
「直接軍事支援がもっとも望ましい。つまり地上軍の派遣だ。我々の国民は君たちの軍を解放者として歓迎するだろう」
「小規模であれば可能でしょう。しかし、私が考えていたのは航空部隊の派遣です。航空部隊は素早く展開し、素早く支援が可能です」
「妥協案としてはそれも考えられるが、我々が戦っているのは我々の祖国の地であり、国民が暮らす場所だ。そこに爆撃機を投入すれば、国民に犠牲が出る」
フェルディナント10世は誤爆によって死傷者が出て、国民が共和国支持に傾くのを恐れているようだった。
事実、王国が行っている爆撃では国民に犠牲が生じたことで反発を招いていた。
「流石に正規軍の派遣は難しいでしょうが、義勇軍の派遣ならば検討しましょう。退役将校などを集め、彼らに武器を与え、そちらの派遣します。それにかかる費用は私が出すとしましょう」
「ありがたい。その上で空軍の派遣も検討してほしい」
「もちろんです。働きかけておきます」
「君はヒスパニア王国の真の友人だ」
フェルディナント10世はアルブレヒトを握手を交わし、侍従武官とともにファルケンシュタイン宮殿をあとにした。
そのようにしてフェルディナント10世との会談はこれで終わり、彼が退席するとアルブレヒトはユーディトを呼んだ。
「ヒスパニア王国から支援を求められた。地上軍を派遣してほしいとのことだ」
「それは殿下の権限の及ばないことでは? 何かお考えなのですか?」
「ああ。反共義勇軍の派遣については考えていた。退役将校などを使った義勇軍の派遣というのが表向きだが、実際には一時的に軍籍を離脱した人間も派遣するつもりだ」
アルブレヒトはハルデンベルク大臣などと話し合って、ヒスパニア内戦への義勇軍の派遣を画策していた。
義勇軍には退役将校を含める他に一時的に軍籍を離脱した現役の将兵を派遣することを、彼らは考えていた。そうすれば表向きはオストライヒ帝国が内戦に対して直接介入したという形を避けられる。
「それに、だ。我々が最後に実戦を経験してから随分と経つ。しかし、今の兵器や戦術がちゃんと想定通りに働くか、それを確かめるにはやはり実戦を経験するしかないところがある」
「それで軍の派遣を行うのですね」
「ああ。軍の将軍たちも納得するだろう。やつらにとっても利益になる話だ」
実戦での兵器のデータは誰もが欲しがる情報のひとつである。特にまだコンピューターの発達が進んでおらず、電子上でのシミュレーションが難しいこの世界においては。
「ハルデンベルク大臣にカプリヴィ宰相が義勇軍の派遣と空軍の派遣に同意するように働きかけてもらうとするか」
この後、オストライヒ帝国はヒスパニア内戦における軍事介入を決定。
空軍から一部の飛行隊が派遣される他、有志からなる義勇軍が派遣された。
これに対抗するようにガリア・コミューンとルーシ社会主義連邦も地上軍を義勇軍として派遣し、ヒスパニア内戦は激化していく……。
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