Bパート

 駐車場の脇に自転車を停めたマナミンは、徐に玄関の前に立った。

 表札には「増田」と書かれている。

 ポケットから鍵を取り出し、扉を開く。

 特に挨拶も無く、中へと入っていった。

 家の中は暗く、人の気配はない。

  

 「ただいま~。」


 無人なのを知っていて、敢えて声を挙げる。

 それは確認でもあった。

 父は単身赴任で当分帰ってこない。

 母は、未だ勤務先だろう。

 姉は、今日は彼氏の所にお泊りの筈だ。

 家は無人。解ってる。だからこそ、コスチュームのまま帰って来たのだ。

 彼女、増田真奈美が魔法少女マジカルマナミンである事は、家族にも秘密である。

 こんな時、マンガの魔法少女みたいに、空を飛べたり、瞬間移動出来たら良いのに。

 マナミンはいつもそう思う。

 万が一にも見られたら、記憶を消さなくてはならない。

 が、それは恐ろしく手間がかかる上、複雑な施術で対象者を危険に晒す事になるのだ。

 彼女は自室に入ると鍵を掛けた。電気も点けず、コスチュームから部屋着に着替える。ステッキ、ペンダントとも破損や汚れの無い事を確認すると、丁寧に折りたたんだコスチュームと一緒にして、ベッドの下から取り出したトランクへと、慎重に片付けた。


 「さて、誰か帰ってくる前に、やってしまうか!」


 彼女は気合を入れる意味で両頬をピシャリと叩く。

 そして部屋の隅のクローゼットの前に立つと、把手に手を掛けた。

 引けば、扉が開くのだろう。だが、彼女はそうせず、90度回転させる。

 するとクローゼット全体が音も無く横へ動いた。

 その下からリフトが現れる。

 リフトに乗ったマナミンがコンソールを操作すると、リフトはゆっくりと降下し始めた。

 増田家地下300mに設置された秘密基地、マナミンはここをマジカルベースと呼んでいる。

 この場所こそ、マジカルマナミンの魔法の心臓部であった。

 ベース内の保管庫へと入ったマナミンは薬品棚に目をやる。


 「マンドラゴラの根・・・、サラマンダーの舌・・・っと、あ、あったあった。後は・・・、これこれ、ギジェラの花粉。これで強力な惚れ薬が出来るわ。一度は振られた男だってたちどころになびくわね。分量を誤ると死んじゃうけど、まあ大丈夫でしょ。」

 

 更に奥の棚から簡素な造りの小箱を取り出す。

 

 「結構少なくなってるな~、イブン=グハジの粉は。まあ犬を見えるようにするぐらいはイケるわね。駄目なら掘り出して『例のペット墓地』に連れて行こうかな。余り腐って無いと良いけど。」


 それらの材料を作業台に並べた所で備え付けの電話が鳴った。

 

 「ああ、『なんでも屋』さん、どう? え? 都合付いた? 『首つり自殺した童貞の死体』が手に入ったのね。分かった、直ぐに送って頂戴。」


 電話を切ると作業台に向き直る。


 「これで後は祭壇を仕上げて、生贄の血を用意すれば『切り落とす者ゲルハイド』が召喚できるわね。どんな相手だってイチコロよ!」


 マナミンは両腕を大きく伸ばして伸びをする。


 「さあ、後もう一息! みんなの願い、叶えちゃうぞ!!」


 自分を鼓舞するようにマナミンは気炎を上げるのだった。


 増田真奈美ことマジカルマナミンは、魔法少女である。

 それも比較的ガチめのヤツだ。

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魔法少女マジカルマナミン キサン @morinohakase

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