第4話 納得の理由。
遅くなってごめんなさい。
一昨日から親戚の家行くのにパソコン忘れて詰んでました。
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「——今日も来ないねぇ……」
相変わらずのイケメン顔を少し悲しそうにした店長が手持ち無沙汰に店内を見渡して呟く。
対する俺は無言。流石に三日も言われると『何がですか?』も『そうですね』とかも言わなくなる。
「あの子……あずきちと秋人君のこと、結構気に入ってくれてると思ったんだけどなぁ」
「あずきちは同意しますけど、俺は絶対嫌われてましたよ」
さては店長、この前の俺を見た瞬間の顔をご覧になられていない?
二回目の人間にそんか顔する? ってレベルでめちゃくちゃ嫌そうな顔されましたよ。
「まぁ最近の子は飽き性って聞きますし、普通なら二回も来れば満足するんじゃないですか?」
「君も最近の子だけどね」
失敬な。もちろん猫ちゃんは例外に決まってるじゃないか。
俺からすれば、365日、計8760時間を猫ちゃんと一緒にいたって、愛が増すならまだしも飽きるなんてあり得ない。
正しく猫イズマイライフ。……バカっぽ。
なんて、今シフトの入っている人間が多いのを良いことに、俺が仕事中に雑談に興じるクソ野郎っぷりを遺憾無く発揮していると。
「——いらっしゃいませ。こちらの券売機でお買い上げののち、消毒をして入ってくださいね」
「ん。……じゃなくて、はい」
元々猫カフェは大声や大きな物音を立てるのは厳禁なだけあって静かだ。
よって扉一つ仕切られた程度では音を完全に遮断するのは難しく、入り口から少し聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そして、俺が入り口の扉を見ているのだから。
「「——あ」」
互いの視線が交差し、思わず声が漏れる。
俺と目が合った相手——猫夏は、ミッドナイトブルーの瞳を僅かに見開かせて。
因みに今日の彼女の服装は、なんかよぉ分からん英語がプリントされた白のTシャツと、だぼっとした濃い灰色のデニムワイドパンツ。
Tシャツはパンツに入れてウエストを強調していた(男である俺視点)。
放課後だと言うのに着替えて来る辺り、猫ちゃんへの愛とJKとしての矜持が感じられる。ちょっいとガチすぎんか、とは思うけども。
「……なに?」
「いえ、なんでもありません。——『猫といっしょ』にいらっしゃいませ」
ジロジロ見んなやゴラァ、との視線を猫夏からいただいたので、一先ず店員として挨拶と礼をしておく。危なかった。危うく猫夏の眼力だけで死ぬとこだった。
——いや覇王色の覇気かっ! ……調子に乗って本当に申し訳ありませんでした。
なんて胸中での大失態に対して誠心誠意謝罪する俺だったが。
「……あ、あの……お客様?」
「…………」
猫夏に超至近距離からジーッと見つめられ、引き攣りそうになる頬を抑えつつそっと身体を仰け反らせる。
だが、再びグイッと近付かれてしまうと、流石の俺もお手上げだ。もう猫夏の髪見るもんね。
……コイツ、こんなサラサラな髪質してんのにアホ毛あるってどういうことだよ。そこだけ神経でも通ってんの?
「…………すみません、ギブです。俺の何が悪かったのか教えてくれませんか?」
「……髪」
「え?」
嘘、だろ……!? 俺が髪をガン見してたのバレてたのか……!?
「——猫の毛、ついてる」
セーーフ! 俺が見てたのバレてなかった!
俺は心の中で主審並みのセーフを繰り出しながら頭に付いているらしい猫ちゃんの毛を取る……わーおびっくり、結構ちゃんと毛じゃん。
そう言えば、店長はずっと俺と話してたのになんで言ってくれなかったのかな? イジメ?
「わざわざ教えてくださりありがとうございます」
「ん」
「……あの、離れてください?」
もう俺には用もないはずなのに依然として離れようとしない彼女の姿に困惑していると。
「……店員、さんに教えてもらうこと、は、出来ますか?」
「へっ? ……まぁ今日はたまたま人手も多いので少しくらいなら……大丈夫ですよね店長?」
猫夏の質問に独断では答えを出せないため、俺が店長に判断を仰げば。
「うん、大丈夫だよ。今日は木曜日っていうのもあって、お客さんも少ないからね」
笑顔で了承する店長。そこはかとなく笑顔に揶揄うような意思を感じる。
大方俺達が実は仲が良いとか付き合っているんじゃないかとか思っているのだろう。
ただ、店長の推測は大外れである。
そもそも学校では会わないし、この店以外で話をしたことがない。挨拶だってこの店でだけだ。
とはいえ、青春に目がない店長にそれを否定するのも無駄な気がするので無視に限る。
「ウチの店長がすみません。お客様、こちらへどうぞ」
「ん」
「待って? 僕って今何かしたかな??」
「自分の胸に聞いてください」
「えぇ……」
そんな捨て台詞と共に俺は猫夏を連れて、あずきちが寛いでいるキャットタワーの近くに案内する。
「あずきちでよろしかったでしょうか?」
要望も聞かずに連れて来てしまったので少し心配になって尋ねると、猫夏は無表情のままコクンと頷いた。
「ん。……あと、敬語、やめて」
「いえ、こんなでも仕事中ですのでそれは……」
「……私は、気にしない。寧ろ、緊張する」
…………はぁ……。
「……分かった、やめるよ」
「ん」
「もう少ししたら猫夏が買ったの届くだろうから猫ちゃんに触りながら待っててくれ」
「ん。……この子は、どこが、好き?」
なんて猫夏が目を向けるのは、彼女の足にスリスリする雪のように真っ白な毛並みが特徴のスコティッシュフォールド——ユキちゃん。デニムの感触が気持ち良いんだろうか。
「そうだな……ユキちゃんはゆっくりなら結構どこでも大丈夫だぞ。でも尻尾を振ってたらやめてあげてな、嫌がってる証拠だから」
俺が喉を触りながらそう言えば、猫夏はおっかなびっくりとした様子でユキちゃんの背中に手を置く——
「……あっ……なん、で……」
彼女の手をすり抜けるように逃げたユキちゃんの姿に、猫夏が僅かに眉尻を下げ、しょんぼりと肩を落とす。
その姿が面白くて、思わず笑ってしまった。
「……なんで、笑う」
「くくっ……ははっ、そんなに『触るぞ!』って意気込んでたらそりゃ逃げるよ。もっと自然に触んないと」
「……なるほど、難しい……」
ユキちゃんを見つめながら『むぅ』と悔しそうに口を尖らせる猫夏だったが……唐突にスマホを取り出して、何やら真剣な表情で文字を打ち始める。
「? 何してんだ?」
「……ん」
いや『ん』だけじゃ分からん……メモ?
見せられたスマホの画面には『猫に触る時はもっと自然に』と書いてあった。
……コイツ、ガチだ。本気で猫が好きに……。
「……あれ? これって……バイトアプリ?」
「? ……そう」
通知が上に表示され、そのアイコンが某有名バイトアプリだった。
たまたまとは言え、人の通知を見てしまったことに罪悪感を覚える俺を他所に、猫夏が言った。
「ここに通うお金、貯めるため。ほとんど単発」
……あぁ、なるほど。
俺はこの一週間彼女が来なかった理由に納得すると共に。
——バイト、出来たんだ……。
初対面の時の印象から、そんなことを思ってしまったのは仕方ないと思う。
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