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動物の死体を埋めている穴から、一本の向日葵が生えていることに気がついたのは、穴がもう四分の三以上埋まってしまった頃のことだった。元々、その穴付近に生えている雑草は他の所の草よりも明らかに勢いが良く、青々と力強かった。目に余るほどに茂る雑草は都度抜いていたが、雑草が茂ることそれ自体は特に気にすることもなく生えるがままに放置していた。
その向日葵は、穴の中心部に、一際力強く、一際目立って凜と真っ直ぐ生えていた。最初、僕はそれが向日葵だとは気がついていなかったが、ただの雑草とは一線を画すその力強い雰囲気に、それを抜こうという気になれず、生えるがままに放置していた。やがてそれがすくすく伸びて、向日葵であると気がついてからは、むしろ献身的に向日葵の世話をするようになっていた。
何故こんな所に向日葵が、とは思ったが、ハムスターを埋めたことも何度かあったから、きっとそれが原因だったのだろうと思い、特にそれ以上気にすることもなかった。
向日葵が生えて、蕾を付けて、その蕾が膨らんでいくにつれて、その向日葵は僕にとって大切な存在になっていった。
無意味に、残虐に命を奪われた動物たちの死体を僕が埋めることで、命は巡り、こうして花の糧となって、いずれ綺麗な大輪の花を咲かせる。――それは、なんて、なんて素晴らしいことなんだろうか。
向日葵の花が咲くことは、いつしか僕の生きる希望となっていた。向日葵の存在が、僕に、僕がただ先輩達の言うがままに非道な行為に加担している人でなしだ、という、悍ましい事実を忘れさせてくれた。例えそれが、自分を誤魔化して罪から目を逸らす欺瞞でも、欺瞞なのだと、自分で分かっていたのだとしても、僕にとって、向日葵の隣に死体を置いて、土を被せている、そのたった一瞬は希望であり、どうしようもないほどに救いだったのだ。
向日葵の蕾は日に日に大きくなり、いっそ異様な程に膨れていった。緑の萼が縁へと追いやられて開き、日の光を思わせる鮮やかな黄色の花弁が中心部を覆い隠していた。
いつ蕾が開くのかと、待ち遠しい気持ちで廃工場に通い詰める内、花弁が一片、一片と先触れのように開き、そして――。
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