第40話 エピローグ

 ちゅんちゅんちゅん

 昇京の海軍病院の軒先で雀の親子が仲良く会話している鳴き声が響くころ。

 サ――――

 カーテンを勢いよく引く音が聞こえる。

「海、おはよう、今日の体調はどう?」

 明るい日差しが海のこけた顔に降りかかる。

「ホント、色々聞いた時、母さんビックリしたんだから」

 海は射し込まれる太陽光に抗い、薄目を開け母親を見る。

(洋服を着ている、ミアと一緒かな)

「ああ、良かった起きたのね」

 母が嬉しそうに微笑む。

「……ミアは」

「ああ、ミアちゃんね、お花の水を取り替えに行ってるわよ」

「そう……」

「あっ言ってるそばから戻ってきた」

 母がにこやかに振り向くと花瓶を持ったミアがよろよろと歩いて来た。

 また洋服を買ってもらったのだろうか、以前着ている物と違う服を着ている。

「ミア、おはよう」

「お兄さ……ん、おはようございます」

 ミアが棚の上に花瓶を置こうとするが、届かないため少しばかり背伸びをした。

「ミアちゃん、危ないわよ」

 そう言って母はミアの持っている花瓶を支えて、一緒に棚の上に置いた。

「ありがとうございます」

「いいのよ、ミアちゃんは本当にお人形さんみたいでかわいいんだから! 母さんミアちゃんの事大好きよ」

 父から聞いた話では、私の手紙を読んだ両親は、未婚なのに養子を取るのかとビックリ仰天したのだが、事情が事情でもあり父が引き取ると色々駆けずり回って書類を修正したらしい。

 私がミアと一緒に西京に帰ってきた時に、私自身はまだツカポン過剰摂取の後遺症であまり記憶が無いのだが、両親、特に母は一目見てミアを気に入り、よく連れまわしているとのことだ。

 海がゆっくりと体を起こすと、ミアが駆けつけてきて支えてくれる。

「母さん、新聞あるかな?」

「海、まずは水分を取りなさい」

 以前ほど痙攣が出なくなったとはいえ、時々出るので警戒しての事なのは分かる。

 水を飲んでいると、母は新聞を持ってきてくれた。

 翔陽・スチューザン連合、北海の戦いに快勝。

 次は、メリアン連合国、コービィー砂漠の秋川司令官に援軍。

(姉の事だ)

 名参謀秋川真好の孫、秋川椿司令官の元にメリアン連合国が陸空の援兵を出すことが分かった。

 メリアン連合国は、スチューザンのマナンプトン公マーガレットと椿の弟海とのロマンスからツェッペリンに対する貴族としての気高き自己犠牲を聞き、上院・下院ともに全会一致で可決、大統領もサインしプロイデンベルクに宣戦布告し、翔陽、スチューザンおよびスーズルカに武器を送ると共に各戦線へ、まずは航空騎を送ってしかるのち魔動歩兵を送る手筈を整えたとの事。

「……マーガレット……あなたの死は無駄ではなかったよ」

 海は静かに新聞を畳んで窓の外を見やった。

 まるで窓にはめ込まれたキャンパスのような青空に真っ白な雲が数個ふわふわと浮かんでいる。

「海、母さんたち帰るからね」

「そうそう、ちゃんと朝ごはん食べなさいよ」

「お兄ちゃんバイバイ」

「母さんありがとう、ミアもバイバイ」

 海は二人の方へ向き直って別れを告げた。

「ミアちゃん、帰りにどこ寄ろうか」

「でも……迷惑なんでは……」

「いいのよ、気にしないでついでだから」

 母とミアとの会話を聞いていると思わず苦笑いが出てくる。

「どっちがついでなんだか」

 海が再び窓の外へ目をやると、帰ってゆく二人の姿が段々と小さくなっていき、角を曲がってその姿は見えなくなった。

 真っ白な雲は風に揺られてゆっくりとこちらに流されてくる。

 マーガレットの魂が海へ会いに来たかのように。

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俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記 クワ @Yo556

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