第39話 好きだからこそ

 はるか上空ではFM一九九が突っ込み体制のいい位置取りを取ろうとしている所をそうはさせじと魔銃で追い払う。

 それでも一騎また一騎と急降下をしてきた。

「おりゃぁぁぁ」

 落下予測点へ魔銃を放ち牽制する。

 数騎繰り返すうちに、一騎に命中し落ちていった。

「三上、見てろよ」

 顔を上げるとJG一九二が最後尾の騎の後ろ斜め下ににじり寄り攻撃を加えんとしているのに気が付いた。

「やらせるか」

 スロットルを開き右旋回に移ると、風魔法を駆使して相手の後ろに回り込み魔銃を放つ。

 魔銃は蚊が叩かれる前に逃げるようにするっと逃げて魔銃が空を切った。

 敵の一九二の僚騎が同じように取りついたので、それも追い払う。

「しつこーい」

 ベアトリクスの叫び声が響くもそれどころではない。

 バシュ

 一九九の急降下攻撃で、中央の味方騎が落とされた。

「くっ」

 戦闘のマーガレット騎に対し、急降下に入ろうとしている一九九二騎が見えた。

「くそう」

 失速しない位に頭を上げ、一九九に向かって魔銃を撃つ。

 タカタカタカ

 魔銃は先頭の騎に命中し、血を噴きながら離脱してゆく。

 二番騎は恐れたのか、身体をずらしたことで角度が変わり、それを修正できずに無理な体勢から魔銃を撃つ。

 マーガレットの握られた両手の中にはふたの開いたロケットが収められていた。

「弾は当たらない、弾は当たらない」

 一九九はそのまま下に突き抜けていった。

「お嬢様を、落とさせはしない」

 束の間の休息もなく、双発の戦闘爆撃騎FM一九〇が斜め魔銃をにゅっと出してマーガレット騎を狙いに目下侵入してきた。

 海は素早くロールをうち一九〇の後ろに回り込むと、魔銃の引き金を引く。

「うっ……」

 魔銃はまばらで威力も弱くとても落とせる勢いは無い。

「魔力が足りない……のか」

 一九〇は海に気付かずにマーガレット騎に忍び寄る。

「俺はホレた女も守れねぇのかぁ」

 一九〇はなおも進み、あと少しで標準を合わせて射撃してしまう。

「しかたねぇ」

 海は右手を捲り上げ、ポケットに手を突っ込んで中にあるビンを取り出し、そのふたを開け右腕に押し付ける。

 ふたの下には短い針が数本ばかりついており、それを触媒としてビンに込められた魔力を使って液体を体に投入する仕組みなのは薄々知っていたが使用したのは今回が初めてだ。

 容量を三分の一程度使用すると、ふたを閉じてポケットにしまう。 全部使うには容量が大きすぎるのだ。

「ふぅあああ」

 感じていた気怠さが消えうせると同時に頭がはっきりとして、また周囲への感覚が研ぎ澄まされた。

「よしぁ」

 再び引き金を引くと今度は普段通りの七色の魔銃が躍り出た。

 パッパッパっと一九〇に吸い込まれたかと思うとそのまま体勢を崩して落ちていった。

 まともFM一九九が上から垂直に落下してくる。

「うおおおお」

 騎体を捻り、マーガレット騎の上に出ると、半垂直の態勢を取り、牽制用の魔銃を放つ。

「また来た、何度目か」

 海の目は少しばかり霞がかり思考も混濁しつつあった。

「もう一丁」

 ビンを開封し右手につける。

「よし、まだまだ」

 攻撃の合間に前方を見ると、数百メートル下だろうか、ツェッペリンらしき浮遊空母が飛行している。

「あと少し……」

 力が抜けてずり落ちそうになる。

 海はまたもビンを取り出す。

「秋川君、それ以上は危険だ」

「死んでしまうぞ」

 ホウィットマンとノワルドの声が聞こえたような気がした。

 最後の液体を体にぶっこむと、マーガレットを襲撃した一騎をたちまち海上へ放り込む。

「秋川さん……」

 マーガレットの声が遠くで聞こえる。

 その後の事は、海もよく記憶に残っていない。

 確かなのは、無事にツェッペリン上空まで来たことだ。

「……マーガレット……」

 失われそうな意識の中、必死にマーガレットを探す。

 マーガレットは急降下が初めてなのか、二度チャンスは無いからなのか躊躇して一歩踏み出せずにいるところを、海が騎を横に着けた。

「海さん」

「……マーガレット」

 海はおかしくなった感覚を何とか正常に保とうと、頭の中を奮い立たせてマーガレットに語り掛ける。

「俺が、先行しよう。 爆弾投下地点に到着したら魔銃を放つからそこで投下するといい」

 マーガレットは強張った顔で頷く。

「行くよ、着いてきて」

 そう告げると、海は騎首を下げて急降下の態勢に入る。

「マリー、聞こえる」

「お嬢様、どうなさいました」

「落下傘があったはず、それを使って降りなさい。 あなたまで私と一緒に死ぬことは無いから」

 マーガレットの言葉にマリーは反発し「いいえ、私もお嬢様のお供をいたします」と強い口調で言った。

「お嬢様は一人で何もできませんから、私が着いて行って身の回りの手伝いをします」

 言葉の終わりには満足そうに笑うマリーにマーガレットは「ありがとう」と諦めの笑みを浮かべ海の後を追った。

 クルクルと高度計が回り始め、ツェッペリンの甲板がドンドンと大きくなってゆく。

 目の前を進む秋川騎から綺麗な魔銃の曳光が見えたかと思うと、クルッと騎体を捻ってツェッペリンの脇をすり抜けていった。

「……秋川さん、ありがとう……愛しています……さようなら……」

 ボォンという今までにない程の爆発音とともに、天まで届くかという火柱が上がり、その場にいるものが皆スゥ―っと魔法障壁が消えてゆくのを感じ取れた。

「マーガレット嬢、うちの隊長もすごいが、あんたはそれ以上に偉いよ」

 急降下に入ったスカーレット騎から放たれた爆弾が、甲板上で炸裂するとプロイデンベルクの兵隊が数人ばかり爆風で打ち上げられた。

「各機、突撃準備態勢とれ」

「よし、俺らも」

「ダリーさんに負けていられません」

 艦橋も吹っ飛び、魚雷を数多く受けたツェッペリンが海中に没したのはそれからしばらく経っての事だった。

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