第36話 ツェッペリン来襲

「ツェッペリンについてだが……」

 会議室に響き渡る程の参謀の声が響く。

「それとなく、潜水艦や航空騎で探ったところ、あの日記の書いてあるような行動をしている」

「まだ、日記の事は悟られていないとみてよいのですね」

「恐らくは……ただ罠の可能性もあります」

 マーガレットの問いに参謀が返すも、どうも歯の奥になにか詰まっているような話し方をしていた。

「この予定では、ツェッペリンはバード―海峡を来月五日前後に通過する予定だ」

「じゃあそこで攻撃ですね」

 海の発言に、まわりの者たちは頷いたり目で同意したりする。

「そうもいかんのだ」

「?」

「ツェッペリンは最新型だけあって、かなり強力な防御壁を纏っているらしく、並みの攻撃では傷つける事ができない」

「では、港で停泊中に襲撃すれば」

「相手は浮遊空母だ、陸の奥地まで行けてしまう」

 周りの天空騎士達から色々意見が出るもこれといった決め手に欠けている。

「書いてあるところだと、恐らくは壁無効または相手より高い防御壁を出せる魔法を唱えながら障壁を超えて肉薄し、攻撃を加えれば障壁は一時的に消滅しそれ以降の攻撃は普通に通るだろう」

 天空騎士達はみな困惑した顔で下を向いた。

 戻れる可能性はまず無いといってもいい確率だ。

 まず敵の直掩騎を避けてたどり着けるかどうかすら怪しい。

「ほぼ特攻ですな」

 参謀は言葉を発した天空騎士を一瞥し視線を下げる。

 その日の会議はそれで終わりを迎えた。

 それから数日後

「マーガレット殿、女王陛下のお言葉、よもやお忘れではございませんな」

 電話の先の貴族は、現状を知ってか知らずか女王の威光を笠に無謀にも近い命令を無理強いしてきていた。

「ふう」

 マーガレットはイスにもたれかかり打開策のことで頭を巡らすも、当然いい案など出てくるはずもなく、まるでミノス宮殿の迷路に迷い込んだ市民のような感覚が頭の中をふわふわと出入りして、まともな判断を下せる状態ではなかった。

 今朝の新聞に目に留まるも、表題からスチューザン政府に対する不信と不満のことが書かれていることが容易に想定でき、それを読む気力もなくただ置くがままになっていた。

「スチューザンおよび翔陽などの天空騎士達はプロイデンベルク側に悟れれないように各基地に駐屯している最低限の航空隊以外は少しづつ小分けにして移動させて、場所が無いので長い道路にすら航空騎を配置するほどの数を集めていた。

 あとは敵の首に鈴をつけるものを誰にするかだけである。

 マーガレットは思い悩んだ、帰れる見込みがないのであるから死んでくれと言わなければならない。 それが嫌ならば命令拒否しかないが、するにしても周りが動いて戦闘準備を終わらせてしまっている。

「私が行くしかないんでしょうね」

 マーガレットは天を仰ぎ、静かに目を閉じた……まぶたの裏には海の顔が浮かんでいた。

 月が替わり、地に足がついていないような落ち着かない雰囲気が蔓延している基地では、一日がとても長く感じる。

 いつものように迎撃から戻り、騎体を預けてピストに腰かけていると、珍しくノワルドと一緒になった。

「お久しぶりです」

「おお、久しぶりだな、どうだい」

「今日は一騎喰いましたよ」

「はは、俺は三騎だ」

 得意そうな笑いを浮かべて海に問いかけてきた。

「雷撃騎じゃないのかい?」

「来ないんですよ、他の不足している騎体の分も含めてなんども本国へは催促しているらしいのですが……」

「そうだな、翔陽は遠いからな」

 ノワルドと雑談を広げている最中、緊張の走る連絡が届いた。

「ツェッペリンが南下中」

「とうとう来たか」

 ノワルドはそれだけを呟いて押し黙った。

「私は、準備があるのでこれで……」

「ああ、またな」

 海が去る間際のノワルドは何事かを思案しているようだった。

 宿舎へ戻り、ベッドに横になると「隊長、どうしたんですか」や「寝るのまだ早いよ」などと色々と茶々を入れながら集まってきた。

「ツェッペリンは知っているな?」

「はい、敵の空母ですよね」

「今日、急に南下しだしたそうだ」

「……ああ」

 みなそれだけで理解した、早ければ明日出撃になるだろう。

「はあ、急いで買い物してこないと」

 頭を音が出そうな位激しく書いて、スカーレットが部屋を出ていった。

「私も、一緒に行きます」

 数人が後を追いかけ駆けてゆく。

「どうも、眠くねぇな」

「男なら、出陣前に体を清めて褌ぐらい交換したらどうですか」

 不意に聞き覚えのある声が頭上から降りそそいだ。

「おぎ……ホウィットマンさん」

 慌てて体を起こす海に対し、ホウィットマンは手で制す。

「三上が亡くなったのは聞いた。 最後アイツの根回しのお陰で助かった」

「……仇討ですか……」

「どちらにしても俺は出撃組だ……だから身を清めようと思ってな」

「確かに、そうします」

「そうだ、家内が買ってきた下着を分けてやる」

「いや、流石に自分の物がありますから」

「そうか、新品だろうな?」

 海はホウィットマンが新品になぜそこまでこだわるのかがイマイチ理解できなかったが、言葉に従うことにした。

 ホウィットマンはそれだけを言うとそそくさと部屋を出て行ってしまった。

「まあ、言う事に一理あるか」

「夕食後に入るか」

 食事が終わった後、新しい下着と服を下ろして風呂へ向かった。

「入念に体も洗ったし、明日の準備も万事抜かりはないよな」

 入浴から戻る最中、若い女性に呼び止められた。

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