第一章 第六話 河賊来襲① 〈交易都市【伊那(いな)】①〉

 ドォーーーン!


 港にある倉庫の一部に、火球(ファイアーボール)が炸裂し、忽ち周囲に火花が飛び散った!


 都市防衛隊の部隊長【源蔵(げんぞう)】は苦虫を噛み潰した顔で、延焼を食い止めるべく部下達に命令して、攻撃を受けた倉庫の周囲に水魔法を掛けさせる。


 【源蔵】の部隊とは別の都市防衛隊は、【伊那河(いながわ)】を占拠している河賊と攻防を繰り返している。


 情勢は一進一退だが、相手の河賊の方が人数が多い上に上級魔法使いの数も、明らかに多い事が窺えるので、時間が経てば経つほどに都市防衛隊の方が劣勢になるだろう。


 そうなれば現在被害の拡大を防ぐ係の我々も、応援に駆けつけざるを得ず、都市の被害は拡大して行くに違いない。


 此処で生まれ育った【源蔵】にとって、とてもでは無いが無法者である河賊に蹂躙される生まれ故郷など、許容出来る訳が無かった。


 ジリジリと胃を熾火に炙られる気分に陥り、たった一人でも河賊の船に突撃をかましたいと思っていると、何だか港の方の雰囲気が変化したらしく、魔法による爆発の音が聞こえなくなった。


 何が起こったのか判らないので、状況確認するべく任されていた現場を副隊長に任せ、自分と報告偵察専門の部下は戦闘が起こっている現場に向かう。


 途中幾人かの怪我人が横たわっていたので、後方の医療部隊に怪我人を渡していたので、若干のタイムラグは生じた。


 その間もチラホラと魔法が放たれる音は聞こえたが、一発くらいしか爆発音は聞こえず、先程までの飛び交う魔法合戦とは様相を異にしていた。


 どの様な状況なのか全く思いつかず、焦燥しながらも戦闘が起こっている現場に辿り着いた【源蔵】の目に、予想していた状況を全て覆す戦場の様子が飛び込んできた。


 先ず目についたのは、戦場のど真ん中で堂々と立つ偉丈夫であった。


 何故そんな状況になっているのか意味不明だったが、次の瞬間その答えの一つが判明した。


 いきなり数本の矢が河賊からその偉丈夫に向かって撃ち放たれたのだが、其れ等を特に気にする様子もなく、無造作に纏めて手で掴み取り、それを地面にばらまいた。


 その直ぐ後に投石が河賊から放たれたが、偉丈夫は指先で弾いた小石でそれを全て撃ち落とした。


 そして河賊の船に乗っている上級魔法使いが詠唱を終えたらしく、火球(ファイアーボール)が偉丈夫に向かって放たれた!


 死んだ!


 その後の人間が焼け焦げた嫌な風景を思い浮かべ、気分が悪くなるのを予想したのだが、その後に起こった風景は【源蔵】の想像を超えていた。


 何と偉丈夫は、両手に嵌めている手甲の様な防具の先端に有る爪で、火球(ファイアーボール)を貫くと、そのまま火球(ファイアーボール)を爪で吸収してしまったのだ!


 「えっ!?」


 理解が追いつかず、思わず呟きが口から漏れたが、周囲に居る殆どの者が自分と同様にポカンとした表情で似た様な呟きを発していた。


 そもそも上級魔法使いが詠唱して放った火球(ファイアーボール)とは、範囲攻撃魔法であり、対抗するには同等以上の防御魔法か、水魔法で空中にある間に迎撃する必要があった。


 というか、そもそも近接戦も行われていた筈の戦場で、何故偉丈夫がたった一人で立ち塞がっているのか? と周りを見渡すと、どうやら其奴等は既に叩きのめされているらしく、都市防衛隊の連中は臨時の陣地に回収されていて治療魔法を受けているが、河賊の連中は其処らに倒れ伏している。


 当然其奴等は味方である河賊の矢や投石の被害を負っていたが、【源蔵】にとってみればいい気味だとしか思えなかった。


 偉丈夫は、火球(ファイアーボール)を手甲に付いた爪で吸収した後、重武装してやって来る河賊の連中に向かって歩を進め、桟橋手前で待ち構える。


 その姿は、何らかの武術の型なのだろう、腰を落として姿勢を屈めているが、両手をハの字型に前に突き出していて、恐らくは格闘技の猛者であろう事が窺えた。


 重武装してやって来た河賊の連中は、明らかに警戒しながら盾を前面に押し立てて、ジリジリと行った様子で偉丈夫の居る桟橋に近付き、距離が至近となったタイミングで手槍を繰り出してきた!


 その手槍を、クルンといった様子で手首を返しただけで掴み取ると、そのまま地面に落としてしまい、眼の前に存在する大盾の表面に両手を翳した偉丈夫は、腰を落としたままで半歩進みながら、両手をそのまま突き出した!


 其処に何の力が加わったのか不明だが、明らかに何らかの威力が伝わったのか、先頭にいた重武装してやって来た河賊以外の後続の河賊達も、何故か腰砕けになってしまったらしく、ヘナヘナとその場に蹲ってしまった。


 その様子を見て船に残っていた他の河賊達は、どうやら勝ち目が薄いと判断したらしく、次々と港から船を後退させて行き、やがて帆を張り直すと、一斉に手漕ぎと風を掴んで我先にと撤退して行くのだった。


 こうして、河賊を追い払う事には成功した我々だが、偉丈夫が何者なのか? という疑問を抱きながら確かに河賊から救われた事実がある事から、感謝するべく偉丈夫に歩み寄る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る