第一章 第五話 プロローグ 〈文明との接触〉
鋭い角を持つ動物の集団に襲われて返り討ちしてから、付いて来ていた山犬の集団が少々怪我を負っていたので、コップに水を河川から汲んできて、唸り声を上げる山犬達を無視して怪我を負った山犬に近付き、近くに生えていた蓬に似た草を利用して、傷口を水で洗った後蓬に似た草で傷口を塞ぎ、他の草でそのまま巻いてやった。
それが治療行為だとは明確には判っていない様子だったが、山犬の集団は彼が敵対意識を持っていない事が判ったらしく、不思議そうな雰囲気で彼を観察する。
彼はそんな山犬の集団の様子に拘泥せず、先程倒した鋭い角を持つ動物の死骸に近付き、全て処置する事にした。
先ずは全ての動物の死骸から鋭い角を折り、続けて所持していた山刀を利用して河端に死骸を持って行き、全ての処置をした。
どうも凶暴さから連想し難いが、鋭い角と表皮が非常に硬い事を除けば、どうやら此の動物は兎によく似た動物らしい。
ならば食用に向いていると思われたので、内臓を取り除いて血抜きして、肉と皮を山刀で剥いで行くと結構な量の臓物が集まって来たので、山犬の集団に少々早い昼飯として与えてやった。
すると、朝の川魚の場合と違い、躊躇無く山犬の集団は飛び付く様に臓物に喰らいつく。
朝に喰らった川魚の時と違い、飢えていない山犬の集団は焦っていないようで臓物に舌鼓を打つ様子を見せて、嬉しそうに食欲を満たしている。
その様子に苦笑していた彼だったが、突然表情が引き締まる。
河川の下流の方から何やら波を起こしつつ、此方目掛けてやって来る存在が有った。
明らかに波の規模と、漂わせる気配が彼が此の世界に出現して以来最大だった、【灼熱熊(ファイヤー・ベアー)】とほぼ同等レベルな事から、かなりの強敵である事が窺い知れた。
ならば、此方には今現在処理した兎らしき動物と、怪我をしている山犬が居る事から、戦場にするのは適さないと考え、彼は50メートル程下流に向かい、少し拓けた河川敷でやって来る存在を迎える事にした。
やがて波を起こしつつ姿を表した存在は、超巨大な大山椒魚と思われる姿形をしていた。
恐らく下流域から此方に向かって来た経緯から、下流に流れた兎によく似た動物の血に誘われたと推察し、彼は近くの川辺に残っていた骨を積み重ねてその表皮も血に濡らして置いた。
姿を表した超巨大な大山椒魚は、予想通り積んでおいた残骸に興味を示し、川辺に這い上がるとバキバキと其れ等を食い始めた。
(・・・大きいな・・・)
大山椒魚は、体長が5メートルは有ろうかと云う超巨体で、体表はヌメヌメとした被膜に覆われていて、如何にも厚みがありそうな手足を、意外な器用さで使用して食事をしている。
特に此方に襲い掛かる様な凶暴さを見つけられなかったので、敢えて挑発する事は避け、彼は兎の様な動物の臓物を喰らい尽くした山犬の集団に近寄り、捌いておいた兎の様な動物の肉片の余りを渡し、通じたかは判らないが会釈をして別れた。
暫く河川の上流を目指して歩いていると、山犬の子供と思われる一匹が付いて来るのに気が付いた。
仕方無く立ち止まって、山犬の子供が近付いて来るのを待っていると、やがて彼の足元に寄って来たので、他に近寄ってくる山犬はいないかと周囲を見渡し、どうも此の一匹だけだと確認してから、よくよく此の山犬の子供を観察すると、薄汚れてはいるが体毛が山犬のそれでは無い上に、顔つきも犬よりも狼に近いと判った。
どうやら、何らかの理由で山犬の集団に紛れてはいたが、此の個体は別種の存在なので、それ程の連帯感は無く、より強い存在に付いて行こうと自然の本能で判断した様だ。
彼は、特に敵意の無い存在ならば、無理に邪険にする必要も無いかと判断し、道連れとして歓迎する事にした。
河川敷を色々と物色しながら歩いて行き、途中で様々な香辛料に成り得る植物等を見つけ、ある程度拓けた場所で焚き火を熾し、兎のような動物の肉に香辛料を塗り込み満遍なく焼いていくと、非常に旨そうな匂いが漂い始め、付いてきた狼っぽい子犬に焼いた肉の切れっ端を上げてやり、作って置いた革袋に余分の焼き肉を詰めて、昼食用の焼き肉を片手に上流に向けて歩き出す。
すると5キロ程進み、河川の幅が縮まった辺りで眼の前に石造りの橋が現れた。
炭焼小屋が有った事から、ある程度の文明が存在するのは判っていたが、それなりの頑丈さが窺える石造りの橋が見えて来たところから、思ったより文明レベルは高そうだと認識を改めて、石造りの橋に繋がる道に進路を変えた。
石造りの橋と違い、道路は踏みしめられた土で出来ていて、舗装状態はあまり良くない。
丁寧な作りの石造りの橋と土作りの道の格差にアンバランスさを感じ、もしかするとこの先にある街や都市は交易都市の様な存在で、馬車や牛車の様な荷車を運搬するのに橋を頑丈に作り、それ以外は道幅を広くしているのかな? と推察する。
やがて、その推察通りに周囲を石壁で覆う形の河川に面した形の都市が見えて来た。
だが、どうも様子が変で、その河川に面した辺りで、何やら諍いが起こっているらしく、何やら物騒な気配が漂って来ていた。
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