クロックワークス・インファントリ

園里弧フェル美

プロローグ

 白いよく磨かれたカップ。単調な音で抽出されるエスプレッソは、カップの白の中で殊更に目立つ。そこに冷蔵庫から出したばかりのミルクを注いでできる、熱すぎもせずぬるくもない、心地よい温度のカフェオレ。

 ここはとても冷たい場所だ。

 あの日、孤児院で夜更かししてこっそり飲んだあのカフェオレの温もりが、今はとても恋しい。ほんの数刻前まで、平穏なあの日々がいつまでも続くと思っていたのに……


 覚えているのは、住み慣れた部屋に響く映画で聞いたような爆発音。友人たちと訳も分からず音から離れるように走って逃げて、それでもどうにもならなくて。

 最後に親友の見せてくれた笑顔。


「せめて、きみだけでも生きて。そうすれば、きっとぼくも報われるから」


 そしてわたしは川に向かって飛び込んだ。此処から離れなければ、という使命感がわたしを突き動かしていた。

 ……泳ぐこともできず、結局この有様なのだけれど。


 暗くて寒くて、もう手足を動かす気力さえ起きてこない。

 嗚呼、わたしは此処で死んでしまうのだろうか––




「お元気かい、 小さなお姫さま? 僕が来たからにはもう大丈夫!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る